馬車から自動車へ。消失したサプライチェーンと新たに出現したもの
セッションは、モデレーターの齋藤昭宏氏による問題提起からスタートした。齋藤氏は、この1年間で日本の知財業務におけるAI活用が急速に進展し、すでに「使うか使わないか」ではなく「どう実践するか」のフェーズに移っていると指摘。オペレーション領域における絶大な効果が実証された今、次なるフロンティアは「戦略領域へのAI活用」であると語り、各登壇者へバトンを渡した。
これを受けて、日本マイクロソフトの田丸健三郎氏が、ITベンダーおよびクラウドサービス事業者のグローバルな視点から、現在進行形で起きている急激な構造変化の歴史的背景を解説した。
田丸氏は、1900年と1913年のニューヨーク五番街の写真を対比させ、たった13年の間に移動手段が馬車から自動車(T型フォード)へと完全に入れ替わった事実を示した。
「このたった13年の変化により、馬の餌を供給するサプライチェーンや、馬車を製造していたメーカーのビジネスは壊滅的な影響を受けました。一方で、自動車のメンテナンスや燃料供給を行う新たなサプライチェーンが急速に整備されたのです。これと同じ規模のパラダイムシフトが、今まさに私たちのビジネス環境、そして知的財産という専門領域でも起きようとしています」(田丸氏)
「数字を作る」から「自然言語による分析」へ、Excelが辿った進化の道
田丸氏は、ITの歴史の本質を「不便を便利にすることであり、専門家でなければできなかったことを、いかに現場に埋め込み、ツールに抽象化して誰でもできるようにするかという繰り返しの歴史である」と定義した。その最も身近な例として挙げられたのが『Excel(エクセル)』の進化だ。
「昔のエクセルは『数字を作る』ことはできても、高度な『分析』は専用統計ソフトやメインフレームに依存せざるを得ませんでした。しかし、クロス集計や自動再計算、データ前処理といった機能が次々と実装され、専門知識はツールの中に抽象化されていきました。そして現在、ユーザーは統計の深い専門知識やマクロの組み方を知らなくても、コパイロット(Copilot)などのAIに対して自然言語で『これこれこういうことをしたい』と指示を出すだけで、高度なデータサイエンスの入り口に立つことができます」(田丸氏)
この「専門知識の抽象化」こそが生成AIの進化の根底にある。2022年の対話型AI登場からわずか4年ほどの間で、人間とAIの関係性は「問いかける(答える存在)」から、自律的にタスクを実行するAIエージェントを「動かす(動く存在)」段階へ、そして業務そのものをAIコワーカーに「委ねる(同僚として任せる)」段階へと根本的に変わったと同氏は強調した。
