イノベーションなしでは生き残れない時代に、既存事業に依存したままでいいのか?
――なるほど、それぞれのレイヤーがイノベーションを理解し、全社的な環境として成り立たせることが大切なんですね。ただ実際には、レイヤーに応じて温度差が異なる場合も少なくないようです。
河野:
確かにそういう話はよく耳にしますね。それでも経営層がイノベーションの重要性と既存事業のマネジメントとの本質的な違いを理解すれば、人材育成、組織、プロセスを含めイノベーションが起きる環境作りを進めていくことができるでしょう。しかし、イノベーションに対する経営レベルの問題意識が曖昧あるいは中途半端で、イノベーションを起こすための仕組みやプロセス構築に対する組織的な支援が十分でない場合は、現場のボトムアップだけで継続的な成果をあげるのは難しいでしょう。
そもそも既存企業では、イノベーションが起きにくいのです。既存企業は、既存事業から効率的に収益を上げるために組織や仕組みが最適化されています。ですから、新しいビジネスモデルを創造するには、組織内の様々な壁や障害を乗り越えなければなりません。既存事業の運営とは別のOSをインストールし、2つのOSを平行で回せる組織とカルチャーを作る必要があります。その意味でも、イノベーションに対する経営レベルのイニシアチブがカギになります。
あわせて重要な役割を果たすのが、現場チームを率いるイノベーション・リーダーです。イノベーションに責任をもつ経営層の支援を受けて、彼らがイノベーションを事業として成り立たせていくキーパーソンといえるでしょう。
――そんなイノベーションを牽引する現場リーダー、あるいはそうしたイノベーション・リーダーを目指しているビジネスパーソンに向けて、メッセージをいただければと思います。
近年、「VUCA( Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)」と呼ばれる時代です。不安定で不確実性が高く、複雑かつあいまいな状況という意味ですが、そうした中でビジネスを牽引していくためには、イノベーションを起こすための新しいスキルとマインドセットを身につけることが必須です。
私が教授としてプログラム開発から参加している多摩大学大学院のMBAコースでは、“イノベーターシップ”というコンセプトのもと、伝統的なマネジメント手法に加えて、不確実性の高い時代の経営リーダーに必要なスキルとマインドセットを習得するための体系的なプログラムを提供しています。講師陣のほとんどはビジネスや経営の第一線でも活躍しているので、現実の問題解決に直結する“実践知”を得ることができます。また、少人数制をとっていることもあり、経験豊富な講師陣と、毎回フェーストゥフェースの中身の濃い議論をできるのも当校の魅力でしょう。様々な業種業界のビジネスリーダー同士の一生涯続く貴重なネットワークも得られます。ぜひ、こうした場を上手く活用してほしいと思います。