起業家になるべきか。起業しようと考えたこともなかった3人の場合
志水雄一郎氏(以下、敬称略):この3人が起業した経緯はそれぞれですよね。
南章行氏(以下、敬称略):そうですね。私は起業したいという意識は全然ありませんでした。どちらかというと自分にはトップになる才能はないという前提のもと、企業を支援する側に回りたいと学生時代から明確に考えていましたね。なので新卒では企業再生に携わりたくて銀行に入り、その後転職して企業買収ファンドに入りました。
ところが、ふと自分自身のキャリアを考えたときに業界のトップになるのは難しいと悟ったんです。トップになるためには自分の苦手なことを覚えなければならない。けれど、嫌なことやできないことを頑張って覚える人生よりかは得意なことを活かして楽しく働く人生を選びたい。それってどういうキャリアだろうと考えたんです。自分の性格とか能力を改めてみつめたときに、実は自分は起業家に向いているのではないか、と突然気づきました。
端羽英子氏(以下、敬称略):私も起業をしたいと考えていたわけではありませんでした。ただ、大学生のときから新規事業に携わりたいという気持ちはありましたね。実際は投資銀行へと新卒で入ったわけですが、就職活動のときには国内メーカーの新規事業部署も受けています。新しいことをやりたいと一貫して考えていました。
志水:私も起業しようと思ったことは一度もないですね。経営者になろうとか、リーダーになろうと思ったこともありませんでした。40歳までいわば普通に生きていましたね。むしろキラキラして見える起業家の人たちがどちらかというと苦手でした。普通に会社員として頑張って、自分のポジションを上げよう、という考え方でした。なぜ40歳までそうだったかというと、起業家のエコシステム、言い換えればネットワークやコミュニティに触れたことが一度もなかったからです。
端羽:私も起業するまでネットワークとはつながっていなかったです。当時の金融業界とスタートアップ業界は遠かったですから。
起業の失敗のコスト、ビジネススクールで学ぶコスト
南:実際に起業に踏み切れたのには主に2つの要因があります。
1つは、いくつかNPOの立ち上げをすでに経験していたという点です。会社の経営と比べると、週末を使ってのNPOの運営はおままごとに見えるかもしれませんが、人が集まって、組織を作り、ビジョンやミッションを設定するなどしていたので、起業の下準備のような経験になりました。
もう1つは東日本大震災です。リスク感覚が変化して、「生きているだけで丸儲けだ」と信じられるようになったんです。振り返ると、これが契機になって踏み切れました。
端羽:私は起業した当時、33歳でしたね。金融やマーケティングの仕事をする中で、事業の立ち上げを担いたいという気持ちがまた膨らんできました。そこで、投資先にファンド側ではなく経営者として入っていきたいと前職で訴えたのですが「経験がないあなたをそのポジションで送るのは無理だ」と言われてしまいました。それもその通りなので、それなら経験を積むべく自分で会社を立ち上げよう、と発想を切り替えたんです。自分でお金を払って仕事を作り、やりながら学ぼうと考えました。
だから、私の中では「起業とは学び」なんです。自費で通った経験もあったからか、ビジネススクールの授業料と、起業に失敗したときに失う金額がほとんど同じだ、と気づけたんです。もちろん、失敗したら、またどこかで働こうと思っていましたしね。
南:たしかに私も、失敗しても雇ってくれる人はいると思っていましたね。だから飛び込めたという側面もあるかもしれません。