なぜ大企業は“未知なる相手”に市場を奪われるのか
講演では全く同じ話は繰り返さないと決めているという宇田川氏は、本講演のサブタイトルに「先手を打てる」という表現を用いた理由を次のように語った。
「今、3冊目の本を『企業変革』をテーマに書いているんです。その中で1つ重要なこととして、いわゆる『後手に回る』という問題があると考えています。全く違うプレイヤーに市場を奪われるということを、日本企業は何度も経験しています。一方で、『先手を打てる』企業もあります。例えば、コロナによって外食産業などはかなり打撃を受けましたが、いち早くデジタルトランスフォーメーションを進め、人手不足というコロナ前からの問題に対処している企業もあります。先手を打てるということは大事なことです。でも、質の高い先手を打たなければなりません。どうしたらそれができるのかということを、今回考えてみたいと思ったのです」
同じくサブタイトル中にある「組織能力」の意味については、経営戦略論の開祖と言われるチャンドラーの説を援用して説明がなされた。いわく、環境の変化を認知し、それに対して必要な対策を講じ、それをきちんと実行するという、3つのポイントを抑えた一連のプロセスを進める力が組織能力であるという。
宇田川氏によれば、後手に回る企業は上記で定義された能力が欠けており、先手を取れる企業にはこの能力が備わっている。よって、企業としてイノベーションを生み出していくには組織能力が必要だとし、ここからイノベーションについての考察が展開された。
イノベーションについて考えるにあたり、宇田川氏はピーター・ドラッカーの『イノベーションと企業家精神』(ダイヤモンド社)を引用し、「人が利用の方法を見つけ経済的な価値を与えない限り、何者も資源とはなりえない」という部分に注目を促した。
ドラッカーは、後に経済的な価値が見出された資源も、それ以前はただの雑草や鉱物、ゴミでしかなかったと記している。その具体例として挙げられているものの1つがペニシリウムだ。