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経営戦略としてのCVC

大企業がスタートアップへの投資で期待する「戦略シナジー」とは──既存事業と新規事業における14の狙い

第2回

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「戦略シナジー」という曖昧な概念

 「戦略シナジー」とは一体何でしょうか。

 実は、日本のCVC組織の大半が集まる業界団体「FIRST CVC」の会合でも、頻繁に議論になるテーマの1つです。CVC実務に携わる人にとって、これほど重要であり、反面難しい概念はありません。

 CVCに限らず、スタートアップへ投資する投資家が共通して求める金銭的価値である「財務リターン」については、明確な指標化が可能です。単純にいってしまえば、より少ない元手で、より短期に、より大きな金額の利益を現実に生み出すことが、財務リターン基準での正義です。具体的には、IRR(Internal Rate of Return、内部収益率)、MOIC(Multiple Of Invested Capital、投下資本倍率)、PIC(Paid in Capital、払込額)、DPI(Distributions to Paid-In capital、実現倍率)などの指標で計測し、数字で一律にパフォーマンスの横比較をすることができます。

 一方、戦略シナジーにはこうした明確な基準や指標がありません。金融業が本業である企業を除き、多くの事業会社はCVCを立ち上げたとしても、投資を本業にしたいわけではなく、大なり小なりCVC活動に対して投資利益には現れない間接的・将来的な貢献を期待しています。

 その狙いは多様で、たとえば成熟した本体事業に限界を感じている企業は新規事業創出を期待するかもしれませんし、高度な技術力を持つ企業ならばR&Dの観点から新たな技術の発見や取り込みを、強い営業ネットワークを持つ企業はスタートアップが作るおもしろい商材をいち早く扱いたいと思うかもしれません。つまり、個社ごとの市場環境、ビジネスモデル、ケイパビリティ等によって、CVC活動を通じて生み出したいと考える戦略的なシナジーの内容は大きく異なるのです。

 CVC活動を開始して数年経つと、社内外から活動の目的やパフォーマンスの評価について改めて問われることがあります。CVC組織が示す成果と、ステークホルダーが期待する成果がズレていることがその原因です。たとえば、CVC組織は「出資先がIPOして投資リターンが上がった」と成果を標榜する一方、事業部は「自部門の売上向上につながっていない」と主張し、社長からは「新規事業の創出がないじゃないか」と指摘され、その結果みんなで「なんでやってるんだっけ?」と問い合う事態に発展するといったものです。

 これはまさに、ステークホルダー間で「どのような種類の戦略シナジーが、どの程度起きることが望ましいのか」についてのアラインメントがなかったために生じた状況です。スタートアップとの協業が何かを生み出すという期待は、きっと正しいでしょう。加えて、CVC活動を本格化させる際には、もう一歩踏み込んで「自社の状況を踏まえると特にこういったシナジーが必要だ。それに向けて皆で協力していこう」という共通見解をステークホルダー横断で持つことが重要になってきます。

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山田 一慶(やまだ かずよし)

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