テクノロジーと組織・個人がどう向き合っていくべきか
村瀬:私が最近感じているのは、テクノロジーの進化により人間が技術面で学習すべきことが増えたことです。個人が様々なツールを活用する時代ですが、これからは企業がテクノロジーを提供するだけでは、能力をうまく発揮できない従業員が増えていくかもしれません。
下垣:そのような状況下では、「新しいものを使ってみよう」という意欲が今まで以上に大切になると考えています。
私のようにバブル前の時代に働いた経験がある方にはわかるかもしれませんが、当時は新しいツールやテクノロジーに対して、必ずマニュアルが存在していました。しかし、今は一つひとつのツールに対してマニュアルがあるわけではなく、多くの場合は不明点をチーム内コミュニケーションによって解決しています。こうした自主性が求められる環境下で大切なのは、やはり「使ってみたい」という気持ちではないかと。
村瀬:企業やチームが新しい技術や働き方に関するミッションを掲げ、従業員と共に取り組む姿勢を見せることも大切です。ただ、肝心の従業員に「やってみよう」という意欲がなければ、組織全体で新しいことに挑戦するのは難しいでしょう。こうした意欲を引き出すのは、リーダーの役目でもあります。リーダーのパッションとコミットメントが重要です。
生成AIはコミュニケーションの在り方を変える?
有地:現在、生成AIの活用に対する期待が高まっていますが、企業や個人は生成AIをどう活用し、どのように顧客や従業員とコミュニケーションをとっていけばよいのでしょうか。
村瀬:私は自身の研究で、企業から社内のチャットデータをいただき、チーム間や部署間で行われているコミュニケーションと、そこから導き出された成果の結びつきを分析しています。一つの組織の中でも、それぞれのメンバーが違った経験知を持っており、それをチャットから収集してデータベース化すると、誰がどんな情報を持っているのかが明確になっていくんです。ただ、それはあくまでも組織が持つ知見にまつわる話です。
人間の性質上、私たちの意識の範囲はせいぜい10メートルが限界で、それを超えると、たとえチャットで会話していても人とのつながりを感じにくくなってしまいます。素晴らしい知見があったとしても、つながりが薄ければ組織は活性化しません。生成AIは、このつながりを補強する可能性を秘めていると思います。AIが組織内に介在してコミュニケーションを補助する役割を担い、組織を強靭なものにしてくれるかもしれません。
下垣:もちろん、AIに答えを出してもらうことに疑問を抱いている方もいらっしゃると思います。恐らくZVC JAPAN内でも、そういったメンバーはいるでしょう。しかし私が言いたいのは、すべての判断を完全にAIに任せるわけではないということです。その答えの正確性を判断するのは、あくまで人間です。皆さんの中にも、AIが出した答えを自分で検索にかけて、それが本当に正しいか調べ直す方が少なからずいらっしゃると思います。今後は、「AIがこんなこと言っているけど本当だと思う?」と人間同士でコミュニケーションをとる時代になっていくでしょう。
村瀬:AIから出た答えをどう解釈し、聞き返し、対話するのか考えることは、まさにコミュニケーションの本質だと思っています。課題・問題を捻出する教養の深さや広さ、クリティカルシンキング、知識構造を理解するための専門性などが必要となるでしょう。こうした能力を養わなければ、対話相手がAIか人であるかにかかわらず、表面だけのコミュニケーションで終わってしまいます。