60年以上デザインの役割を拡張させ続けてきたソニーのデザイン組織
岩嵜博論氏(以下、敬称略):ソニーのデザイン組織は国内企業でも特に長い歴史を有しています。本日は、そのデザイン組織がどのような変遷をたどり、現在はどのような機能を果たしているのかをお伺いします。まずは、現在の組織概要をお聞かせいただけますか。
前川徹郎氏(以下、敬称略):現在、ソニーのデザイン組織であるクリエイティブセンターは、大まかにインキュベーションデザイン部門とコーポレートデザイン部門の二つの部門に分かれています。インキュベーションデザイン部門は、テレビやオーディオ、カメラなどの製品のデザインに加え、未来志向の商品提案などを手がける組織。一方、コーポレートデザイン部門は、経営企画やブランディングなどを支援する組織です。前者が比較的タンジブルな領域を主に担う組織、後者がそこから役割をさらに拡張し、デザインを通じてコーポレート領域のイシューに取り組む組織といえます。
このうち、山田はインキュベーションデザイン部門、私はコーポレートデザイン部門の部門長で、それぞれがクリエイティブセンターの副センター長を務めています。山田は生え抜きのプロダクトデザイナーであり、長年にわたってデザイン関連の業務に携わってきましたが、私自身はマーケティング、事業企画、経営企画などに従事してきており、いわゆる「ノンデザイナー」です。当然ながらデザイナーのキャリアはありませんし、美大卒でもありません。コーポレート領域の支援を行うということもあり、クリエイティブセンターにはノンデザイナー人材も所属しており、近年、その数が徐々に増えています。
岩嵜:なるほど。では、どのようなプロセスを経て、クリエイティブセンターが現在の姿に至ったのか教えていただけますか。
山田良憲氏(以下、敬称略):歴史を遡ると、クリエイティブセンターの前身である「デザイン室」が設立されたのは1961年です。ソニーで社長、会長などを歴任した大賀典雄が、それまで事業部ごとに分散していたデザインチームを一つの組織にまとめたのが始まりでした。
大賀はもともと音楽家のため、アーティスト的なマインドが強く、ビジネスとデザインを架橋する存在でした。こうしたなかで、エポックメイキングなプロダクトを生み出すソニーのデザイン組織が形成されていきます。当初は、デザイナーが関わる領域もプロダクトなどが中心でしたが、時代を経るにつれてその領域が拡大。グラフィック、UI、アプリケーション、ブランディング、空間など、幅広い領域のデザインを手がけるようになりました。
現在のクリエイティブセンターの位置付けとしては、デザインを通じてゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、エンタテインメント・テクノロジー&サービス、イメージング&センシング・ソリューション、金融の6つの事業をつなぐことに加え、社外と社内をつなぐ機能も担う「クリエイティブハブ」を標榜しています。
エレクトロニクスが祖業ということもあり、現在もプロダクトとのコラボレーションが割合としては多いですが、最近では半導体や金融とのコラボレーションも増えつつあります。また、2020年には社外のお客様にデザイン視点でのソリューションをご提供するためのソニーデザインコンサルティング株式会社も立ち上げました。