新規事業推進部が中心となり4つの新製品をリリース。次世代の事業の柱を目指す
中垣徹二郎氏(以下、敬称略):前編では、オープンイノベーションの推進方法や、事業部などとのコミュニケーションについて伺いました。その一方で、新規事業推進部が主導して、新たな製品を開発することもあると聞いています。
安井邦博氏 (以下、敬称略):2020年頃から現在まで、新規事業推進部の主導により4つの新たな製品を開発し、リリースしています。排熱レス・フロンレスのスポットクーラー「Pure Drive」、小型卓上空気清浄機「エアロゾルクリーナー」、水素吸蔵合金を利用した「燃料電池システム」、チームで使える手書きノートアプリ「BuddyBoard」の4つです。全てリリースされたばかりで、まだ事業ポートフォリオに影響を与えるほどの規模には至っていませんが、今後大きく成長させていきたいと考えています。
中垣:電機製品からアプリまで幅広いですね。そのなかから、いくつかご紹介いただけますか。
安井:まずは、排熱レス・フロンレスのスポットクーラー「Pure Drive」です。スポットクーラーとは、工場や倉庫などの空調を効かせにくい場所で利用される冷房器具。「Pure Drive」は、排熱が出ない独自の熱交換器を使用しており、フロンや代替フロンのような冷媒を使用しないため、労働環境に配慮した製品であり、廃棄時にフロンを回収する手間や費用がかかりません。また、一般的なスポットクーラーに比べ、消費電力やCO2排出を約75%削減できるため、省エネにも効果的で地球環境に配慮した製品ともいえます。
中垣:ブラザー工業は中期戦略で、企業として解決すべきマテリアリティ(重要社会課題)に「CO2排出削減」を掲げていますね。以前から、排熱レスやフロンレスの開発を進めていたのでしょうか。
安井:いいえ、「Pure Drive」の開発までには紆余曲折がありました。以前、新規事業推進部では、とあるエネルギー系の大型プロジェクトが進められていたのですが、なかなか成果が得られなかったため、部門長を拝命して半年後にこのプロジェクトを断念。その後、同じプロジェクトメンバーでゼロからアイデアをいくつも出し合うなかで、「冷房機器の省エネ化によるエネルギー削減」というアイデアに辿り着いたメンバーがいました。
その後、そのメンバーをプロジェクトリーダーとし、省エネ冷却技術を調査するなかで、社外にそのヒントを見つけ技術の取り込みを行いました。短期間で試作品を開発し、ヒアリングを実施。1ヶ月で約200名にその試作品を見てもらい、製品化に向けて改良を進めました。
中垣:販路はどのように確保しましたか。
安井:スポットクーラーを扱う大手代理店に試作品を持ち込み、役員の方にプロジェクトリーダーと一緒に直接交渉しました。冷房機器の業界ではサステナビリティへの対応が重要な課題になっていることもあり、排熱レスやフロンレスのアイデアは高い評価を受けることができました。結果的に、まとまった規模の受注を獲得し、無事リリースに至っています。
中垣:開発段階で受注を獲得していたわけですね。顧客が明確になっていれば、製品化にあたって社内からも理解を得やすいはずです。これは新規事業開発のポイントかもしれません。お客様がいらっしゃることが、既存事業部門にとって一番説得力があるので。