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オープンイノベーションでR&Dを刺激する──スタートアップ投資の損得勘定こそが、リスクテイクに繋がる

【後編】株式会社クラレ イノベーションネットワーキングセンター ジェムストン推進グループ グループ長 濵田健一氏

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 前編に引き続き、本記事では、化学メーカーのクラレでイノベーションネットワーキングセンター ジェムストン推進グループ グループ長を務める濵田健一氏へのインタビューをお届けする。シリコンバレーに駐在し、スタートアップを本社側に繋げるポリネーターとして活躍した濵田氏に、組織内にオープンイノベーションの体制を築くためのヒントを聞いた。聞き手は中垣徹二郎氏。

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オープンイノベーションの「リスク」と、どう向き合うのか

中垣徹二郎氏(以下、敬称略):前編では主に、オープンイノベーションに臨む企業が、どのような人材をポリネーターに指名するべきかといった論点でお話を伺いました。後編では、オープンイノベーションを成功させるコツやTipsを掘り下げたいのですが、何かポイントはあるでしょうか。

濵田健一氏(以下、敬称略):個人的には「みんなでリスクを少しずつ取り合う」が重要だと感じています。イノベーションにはリスクが付き物ですから、リスクを完全に排除すると新たな技術や事業は生まれません。しかし、オープンイノベーションの窓口役が一人で何億円ものリスクを取れるかといえば、そうではありません。重要なのは、経営層も事業部門も窓口役も、それぞれの立場に合ったリスクを取り合うことなのではないかと。

 例えば、窓口役は多少のリスクはあっても、本社側にスタートアップを提案してみる。一方で、本社側も多少のリスクは飲み込みながら、スタートアップを受け止めてみる。こうした動きの積み重ねがイノベーションを生み出すのではないでしょうか。

中垣:リスクテイクについては難しい面がありますよね。言うまでもなく、リスクは誰もが避けたいものです。「どこまでのリスクを許容するか」は議論が分かれそうですね。

濵田:そもそも、イノベーションは成功確率が非常に低いものです。失敗する確率のほうが成功する確率より高いわけですから、その案件に対して社内で合意を得るのは至難の業です。いずれにせよ、本社側と窓口役の間に、ある程度の合意形成がなければオープンイノベーションを実現するのは難しいと思います。そのため、窓口役には、経営層や事業部門の意向を汲み取ったり、事前の根回しをしたりする立ち回りは求められるでしょうね。

 私自身の話でいえば、クラレは2013年に超防湿フィルムを開発する米・ヴィトリフレックス社と戦略的パートナーシップを締結しているのですが、この際には本社側のオープンイノベーションへの機運が高まり、取り組みを後押ししました。当時は、クラレもVCへの投資をはじめたばかりの時期で「まずはやってみよう」という意欲が高かったのだと思います。こうした社内の雰囲気をいち早くキャッチするのは大切ですね。

スケールアップパートナーという立ち位置

中垣:国の補助金など外部の資金を活用するというアプローチもありますよね。前職のVC時代に、クラレさんと手がけた大学発のスタートアップとの案件がそうです。そのスタートアップは当時シードの段階で資金力に乏しく、製品の量産化には遠い状況でした。しかし、クラレが一部資金を提供したことが実績になり、国の機関からの補助金が交付され、量産化が実現しました。当初からすべてを抱え込むのではなく、限定的に投資をして、事業にも伴走しながらオープンイノベーションを進めていく方法もあるのかなと。

濵田:そのアプローチを「スケールアップパートナー」と呼んでいます。クラレはCVCを設けていないので、巨額の投資を意思決定するのはなかなかハードルが高いです。だとすれば、「投資をします」ではなく、「スケールを支援します。その延長線上に投資や買収もあります」という方向性で関係性を築いていくほうが、Win-Winの関係になりやすいのだと思います。

段階的にスタートアップとの関係性を深め、信頼関係を構築する

中垣:スタートアップとの関係性もさまざまな状況や段階があると思います。

濵田:たしかにそうですね。リスクテイクの問題でいうと、スタートアップとの信頼関係は大切ですね。私自身、シリコンバレーに駐在して実感しましたが、世の中には怪しげなスタートアップが一定数存在します。だから、当初から「提携ありき」で話を進めるのはリスクが高いと思いますね。一定期間はコミュニケーションを重ね、さらにPoCを適宜挟みながら、両者の信頼関係を徐々に醸成していくのがよいと思います。

濵田健一
株式会社クラレ イノベーションネットワーキングセンター ジェムストン推進グループ グループ長 濵田健一氏

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

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