情報アーキテクチャのためのシステム思考アプローチ
基調講演では、登壇したピーター・モービル氏の最新刊『Intertwingled: 錯綜する世界/情報がすべてを変える』を軸に、ユーザーへ適切に情報を理解してもらう「理解のアーキテクチャ」の構築に必要なアプローチについて語られた。
情報アーキテクトとして活躍するモービル氏が、普段からWebサイトのコンサルティングを手掛けている中で多く見かけるのは、「ユーザーがどのサイトを何の目的のために使っているのかわからなくなっている」状況だという。冒頭、無目的に大きく膨れあがったWebサイトの事例を、38年間ずっと建築途中だった邸宅「ウィンチェスター・ミステリー・ハウス」にたとえて紹介。
アメリカの議会図書館のWebサイトはまるでこのウィンチェスター・ミステリー・ハウスのようであり、ファインダビリティ(情報の見つけやすさ)は悪夢のようなものだと、レポートにまとめて理事会に提出した。
しかし、そのレポートは理事会の急なキャンセルによって、1度潰れてしまう。
「ピーターあなたの意見には賛成なのだけれども、この報告書はあまりに多くの人の気に障ってしまう。タイミングも良くない」と言われた。
失望したモービル氏だったが、結局レポートは議会図書館の理事会に提出され、Webサイトの再編が動き出す。100のウェブサイトを3つに統合したほか、「ユーザーが何を探したいのか」を明確にして検索ナビゲーションをつくり、サイトを分かりやすいものに変更できた。しかし、もっと変更したかった多くの改良点までは対応できなかったという。
情報アーキテクチャを作るためには、ガバナンスにも文化にも関わっていなければ非常に難しいと、私は身をもって体験した。
つまり、ユーザーが目的を逸したサイトになった要因でもあり、改良を阻んだ要因にもなったのは、組織の問題だったという。では、こういった状況をどのように解決していけばいいのか。
そこで重要になるのが『Intertwingled: 錯綜する世界/情報がすべてを変える』で解説している俯瞰した視野の持ち方、すなわちシステム思考のアプローチだ。システム思考のストックとフローの概念を用いることで、予測が難しい生態系のシステムも表現できるとし、アイル・ロイヤル国立公園で実施された狼とヘラジカの個体数調査を例に挙げて説明した。
その後、書籍の章立てに沿って、理解のアーキテクチャを構築するのに有効な情報の分類方法やコンテンツ同士のつながり方、情報を提供する組織における文化の捉え方、変化を起こすために必要な限界の捉え方について、ポイントを解説。最後に、情報アーキテクチャを進める上で持つべき視点として、望遠鏡のほかに、顕微鏡や万華鏡の視点が必要と説き、システムの全体像を把握することと、システムについてより深く詳細についても詰める必要があると強調し、講演を終えた。
いかに私たちのシステムが複雑なのかということをもっと深く理解する必要があるのではないか。そうすれば私たちがこの世の中に与えるインパクトがもっと長く続くものになるのではないかと考えている。