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コマツ冨樫氏と語る、傍流から始めるオープンイノベーション──10年先のビジョン構築と専門人材の育成

【後編】株式会社 小松製作所(コマツ) CTO室 Program Director 冨樫良一氏

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オープンイノベーションは傍流から始めよ。自前主義を乗り越えるトップの理解

中垣徹二郎氏(以下、敬称略):前編では、コマツのオープンイノベーションの成果や変遷を伺いました。その根底にはコマツの組織文化である「現場主義」があることがわかりましたが、外部から技術を取り入れることへの抵抗はなかったのでしょうか。現場主義は自前主義へとつながる可能性もあります。後編では、オープンイノベーションの現場のリアルをお聞きしたいです。

冨樫良一氏(以下、敬称略):社内からの抵抗はもちろんありました。現場の技術者たちは自社の技術に自信を持っていますし、「自前でやりたい」という思いも強いです。だから、「本丸から攻める」ような手法では、オープンイノベーションはなかなか前に進みません。

 例えばコマツでは、主力製品のPC200という油圧ショベルにスタートアップの技術を取り込もうとすれば、おそらく大きな抵抗に遭うでしょう。それは自前主義も理由の一つですが、建機の品質水準の高さも関係しています。建機は24時間365日、20〜30年というタイムスパンで稼働する車両です。こうした条件で利用される車両は珍しく、非常に高い品質が求められます。そこにスタートアップの技術や部品を車載して故障の原因になってしまうと、致命的な事態になりかねません。現場の技術者たちがオープンイノベーションに慎重になるのもやむを得ないところがあります。

中垣:そうした抵抗をどのように緩和していくのでしょう。

冨樫:「トップの理解」は必要だと思います。2015年に提供開始した、建設現場をデータで見える化するICTソリューション「スマートコンストラクション」の開発では、当時の社長だった大橋(大橋徹二氏、現・コマツ取締役会長)がオープンイノベーションの旗振り役を担いました。もともと、スマートコンストラクションは大橋の肝入りであり、彼自身もイノベーションに理解の深い人物です。これにより、スマートコンストラクションのプロジェクトでは、アメリカのスタートアップと3D地形の生成サービスを共同開発するなど、さまざまなオープンイノベーションが実現しました。

中垣:スマートコンストラクションの推進本部長には、外部の人材だった四家千佳史氏を据えていますよね。こうした起用もオープンイノベーションの推進に一役買っていますか。

冨樫:そうだと思います。もともと、四家は福島県で建機レンタル業を営んでいる経営者でした。そのころにコマツの製品を取り扱っていたのですが、彼はメーカー側が思いもよらないビジネスモデルを数々作り上げています。

 例えば、前編で紹介したKomtraxでは、システムを在庫管理に応用して成果を証明し、2001年の自社建機へのKomtraxの標準搭載の原動力となりました。また建機は住所が明確に分からない場所で稼働していることが多いため、現地のお客さまでも車両の位置を正確に把握するのが難しいのですが、KomtraxのGNSS機能で建機の場所を正確に把握することができるようになりました。

中垣:山間部や未開発の場所は、街中のように細かく番地が振られていませんからね。

冨樫:そうなると故障時の対応に困るわけです。サービス員が、お客さまにどこに向かえばいいのかと尋ねると「山道から入ってすぐのところです」と、とても曖昧な返事が返ってくるので(笑)、それでサービス員が建機の場所までなかなか辿り着けず、修理までに無駄な時間を費やしてしまいます。しかし、GPSで建機の位置を特定すれば、サービスマンが即座に出動できるので、修理までの時間を短縮できます。

 こうしたKomtraxを活用した様々なトライアル行ったのが四家でした。その後、彼が経営していた建機レンタル会社とコマツの子会社が統合し、これまでの実績が見込まれスマートコンストラクションの推進本部長に配置されました。

中垣:冨樫さんは、先ほど品質水準の厳しさについて話されましたが、メンテナンスに関する課題を解決したのはコマツにとって大きな成功体験だったと思います。その成功体験を実現した人物がオープンイノベーションを推進するからこそ、社内から信頼を得られるのではないでしょうか。

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

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