クラレのイノベーション組織が「ネットワーク」を重視する理由
中垣徹二郎氏(以下、敬称略):本日は、化学メーカーのクラレでオープンイノベーションを主導する「イノベーションネットワーキングセンター」から濵田健一さんをお招きしました。
濵田さんと初めてお会いしたのは12年ほど前です。前職のVCが設立したファンドにクラレがLP出資し、その窓口役として濵田さんがシリコンバレーに駐在されていました。その後、シリコンバレーに4年半ほど駐在して日本に戻られ、現在もオープンイノベーションのリード役として活躍されています。本日は、濵田さんが長年の経験で培ったポリネーターとしての知見をお伺いしたいと思います。まずは、濵田さんのご経歴をお聞かせいただけますか。
濵田健一氏(以下、敬称略):新卒入社以来、クラレ一筋のキャリアです。約30年前に入社し、基本的には研究開発部門で勤務してきました。なので、オープンイノベーションや投資については全くの素人でしたが、中垣さんがおっしゃったシリコンバレー駐在が転機になり、スタートアップの探索やコーポレートベンチャリングに携わるようになりました。その後、日本に戻り、一時期は事業部の仕事に従事しましたが、2024年1月にイノベーションネットワーキングセンター内に新設されたジェムストン推進グループ グループ長に就任。現在はスタートアップの探索や協業などを手がけています。
中垣:イノベーションネットワーキングセンターが設立された経緯は何だったのでしょう。
濵田:イノベーションネットワーキングセンターの設立は、中期経営計画「PASSION 2026」における主要な取り組みの一つです。PASSION 2026では「社会・環境価値、経済的価値を考慮した事業ポートフォリオの高度化」を掲げ、新規事業の創出などを通じた事業ポートフォリオの変革を目指しています。社会や経済などの外部環境が急速に変化するなかで、持続的成長を実現するため、イノベーションの創出に取り組もうというわけですね。
こうしたなかで、イノベーションネットワーキングセンターが設置されたのですが、その特徴は「ネットワーキング」を組織名に冠していることです。イノベーションを創出する手法はいろいろあるわけですが、クラレはネットワークを活用して新たな技術や事業を生み出します。社内人材、顧客、スタートアップなど、さまざまなステークホルダーとの関係を強化し、そのネットワークのなかでイノベーションを創出しようと。この点は、世に数多くあるイノベーション組織のなかでも特徴的な点ではないでしょうか。
中垣:クラレは100年近い歴史を持つわけですが、伝統的な大企業がここまで踏み込んだ広範なネットワークを構築しようとするのは珍しいと思います。
濵田:長い歴史を有する分、コンサバティブな組織文化はまだまだ根強く残っています。それを変革し、イノベーションが生まれやすい組織文化を醸成するのも、イノベーションネットワーキングセンターのミッションですね。