テクノロジーとビジネスをつなげる、肝心のDX推進組織がつながっていなかった
住友重機械工業(以下、SHI)は、プラスチック射出成形機やリアモーターなどをはじめ、製造装置や精密機械などのメカトロニクス製品を製造し、グローバルに展開する住友グループの機械メーカーだ。
同社は、「こだわりの心と、共に先を見据える力で、人と社会を優しさで満たします」というパーパスを掲げ、2023年の中期経営計画では、「一流の製品・サービスによる社会課題解決を通じて、持続的に企業価値を拡大すること」を基本方針としている。これを実現するためのDX推進が大きな課題となっており、山口久美子氏が所属するICT本部がその牽引役を担ってきた。
そんなSHIのパートナーであるインキュデータは、ソフトバンク・博報堂・トレジャーデータの3社によるジョイントベンチャーだ。お客様によるビジネス変革と成果の自走化をゴールとする「アイデアを自走できる世界をつくる。」をパーパスに掲げ、データコンサルティングファームとして「顧客体験価値を高めるための顧客データ活用」を中心に、DX推進からデータ活用、デジタル事業開発の支援に至るまで、企業へ幅広い支援を行っている。
イノベーションを起こすための組織改革において、SHIは最初にICT本部内の「DX推進組織づくり」に取り組んだ。しかし、同組織の“ありたい姿”として「多様な人材が共創し、絶えずイノベーションを起こしていく組織」を思い描きながらも、考慮すべき背景や課題が山積みだったという。
たとえば、ICT本部に所属する40歳未満のメンバーのうち、76%は2019年以降の入社であり、コロナ禍でコミュニケーションの手法が大きく変化した後に入ってきた世代であること。また、ICT本部は全国の事業所に点在しているためそれぞれの間に物理的な距離があり、かつ定期的な交流がないために、いわゆる“知らない人”が多く、心理的にも距離が生じていたこと。さらに、対等なパートナーとして共創すべき相手である他部署に対しても、これまでの経緯から「請負うコミュニケーション」に陥りがちというマインド面の問題があった。
SHIの山口氏は、「社歴が浅いメンバーが多く、コロナ禍で対面しないため名前と顔が一致しない、出社していても誰かわからないということが多々あった。『オモイをつなげるDX』を主導していく立場にあり、システムやデータ、ビジネスの各領域をつないでいく必要がありながら、『ICT本部がつながっていない』状態にあった」と当時を振り返る。
働き方やコミュニケーションスタイルが変わる中で、イノベーションを起こさなければならないという切迫感。その中で、なにか新しいことを始めようにもなかなか上手く進んでいかない。結果、DX推進自体が頓挫してしまう……というのが、1つめの“躓きポイント”と言えるだろう。そこでインキュデータのサポートのもと、DX推進組織づくりの第一歩として、組織の現状を正しく把握することから取り組みをスタートした。
インキュデータの古谷梢氏は、「ゴールを設定できたとしても、現状との差分を埋めていくには何段階かのステップを順番に踏む必要がある」と語り、その第一ステップとして「距離とマインドのリセット」が必要であることを強調する。SHIのケースでは、このための施策として「アイデアソン」という手法を用いた。