この事業は「儲かるか」:収益性を検討する
そして最後に検討するのが収益性、つまり「儲かるか」の部分だ。
井上氏は「儲かる」に因んで、「流行だから」「何となく」という理由でサブスクリプションやSaaSという形態を無自覚に選んではいけないと語る。サブスクリプションというのはつまり、単に月に一度課金するという料金形態のこと。もちろんうまく行く場合もあるが、課題・価値の感じ方と料金形態がずれていると解約に繋がってしまう。課題・価値と、収益モデルがマッチしている必要があるのだ。
井上氏は課金モデルに関して、誰が何に対して、どのように、いくら課金するか、という順に考えていく必要があると指摘する。価格からターゲットを考えるなど、これを逆向きに決めていってしまうと、仮説が曖昧なまま価格だけが決まってしまい、妥当な額はいつまで経っても分からないといった事態に陥る。
そして、最後に変動費や固定費などのコストや、そして単月黒字や投資回収にはどれくらいの時間が掛かるのかなどを記入すると、Value Design Syntaxをすべて埋めたこととなる。
もちろんこの段階では、KPIがそれぞれどういう関係になっていて、どのKPIがもっとも検証されるべきなのかを明らかにすることが必要だ。例えば、SaaSビジネスにおいては解約率と顧客獲得単価(customer acquisition cost , CAC)が重要だ。どの数字がどうなれば、アクセルを踏み、ブレーキを踏むのかを予め把握しておく必要がある。
既存のフレームワークにないValue Design Syntaxの強み
Value Design Syntaxの空欄は20個だ。もちろん、新規事業には他の要素も数多くある。しかし、1年掛けてサービスをデザインしていては、新規事業は成功しない。この20の要素は、議論するべき必要十分な要素であるはずだというのが井上氏たちの考察結果だ。実際にこのフレームワークの開発後、100件ほどの案件で実践し、その有効性を検証してきたという。
当然ながら井上氏らにも、既存のリーンキャンバスやビジネスモデルキャンバスなどを否定する気は一切ない。むしろ、長らく使ってきたという。しかし、これらのフレームワークは各要素を個別で把握しがちだ。実際には各要素は連動している。顧客をピボットすれば、課題も変化するのだ。そのため、相関・因果関係を明らかにしつつ全体の整合性を意識しながら議論しなければならない。
Value Design Syntaxは全体を通して文章として読むことができる形になっている。つまり、これをこのままの順番で読み上げれば、1分ほどのエレベーターピッチとして成立するのだ。「売れるし、勝てるし、儲かる」と伝えられるならば、サービスがきちんとデザインされていると言えるだろう。
実際には、Value Design Syntaxに合わせて左から順番に今の観点で20個の仮説を立て、検証していくというのが新規事業を創るプロセスになるだろう。ここで井上氏が注意を促しているのは、すべての仮説を100%検証しきることは重要ではないということだ。むしろ、重要なのはスピードだ。ゆえに、締め切りを設けて、その期間内に80点程度の検証をするといったケースのほうが想定されているそうだ。つまり、投資の意思決定ができる、必要十分なレベルで仮説を検証しきることが重要なのだ。