カスタマージャーニーマップ注目の背景
まず、CJMが注目されている背景にある「サービスデザイン」について簡単に触れておきたい。
サービスデザインとは、顧客の利用体験すべてが「サービス」であるという考えのもと、製品や店頭での接客、さらには組織体制などもそのサービスを構成する要素と捉え、事業自体を再定義するものだ(※1)。この再定義を行う際には、顧客視点に立ち製品・サービスと顧客とのさまざまな接点(タッチポイント)の全体を把握することが不可欠となる。特に製造業においては、製品スペックだけでの差別化が難しい昨今、製品に関わる体験全体の最適化が重要になる。そこで、顧客行動をジャーニー(旅)として記述し、全体像を把握し、既存サービスの最適化や新規サービスの検討を行うための手法としてCJMの重要性が説かれているのだ。
また、CJMは顧客視点で体験全体を描き出し、その流れを理解し共感することができるため、たとえば、顧客に向けたコンテンツの方向性や表現のトーンなどについてより深く検討でき、顧客に響く企画を生み出しやすくなることもあるだろう。つまり、顧客体験の全体像をビジュアル化することで、「顧客視点」と「事業者視点」の両方から俯瞰してさまざまな検討を行うことができるのだ。
※1「サービスデザイン」についての詳しい情報は以下を参照。
http://www.concentinc.jp/labs/category/servicedesign/
俯瞰する視点をもつことの価値
それでは、なぜCJMを描くと俯瞰する視点を獲得できるのか? それはCJMが複雑な顧客行動を、体験の質という定性的な情報も含めて、一枚の地図として見渡すことができるものだからだ。文章や複数ページの資料でも表現することは可能だが、そこから直感的な理解を得ることは非常に難しい。
顧客行動全体を一枚の地図に記述することによって、それらをひとつのストーリーとして捉えることができる。これにより、広い視点から課題や新しいビジネス機会を発見し、プロジェクトメンバー全員でそれを共有することができる。頭の中だけで考えるのではなく、情報を共有しながら、体験全体の最適化に向けた議論をすることが可能になるのだ。
CJMによって思考を外部化することは、複数のメンバーで議論をする際の大きなメリットのひとつだ。考えていることを一度ふせんなどに書き出し、目の前の具体的な「モノ」として順序、優先度、要・不要などの整理を行う。そうすることで、プロジェクトメンバーと迅速な意思疎通を通し発見を行うことができるのだ。
それでは顧客体験をビジュアル化するにあたり、実際にどのようにCJMを描けばよいのだろうか。考え方や描き方のベースはあるが、最終的にどのような形にするかは目的に応じて個別に検討されるべきだ。すべてのケースに共通する普遍的なフォーマットというものはなく、描きながらその観点も含めて検討を行う。具体的な正解の形がないとCJMを描くことは難しいと構えてしまうかもしれないが、その必要はない。むしろビジュアル化していくなかで、どのような視点でCJMを形づくっていくか、ポイントとなる意図をつくりながら抽出していくことが重要なのだ。