不確実な状況下で行動し、未来をつくるエフェクチュエーション
本講演では、ネスレ日本での具体的な事例を島川氏が語り、それを吉田氏がエフェクチュエーションの概念を用いて解説した。その前段として、吉田氏からエフェクチュエーションとは何か、基礎的な説明がなされた。
エフェクチュエーションはヴァージニア大学のサラス・サラスバシー教授らが提唱した理論だ。熟達した起業家を集めて行われた意思決定の実験で得た知見がベースとなっている。
エフェクチュエーションと対比的に用いられる語に「コーゼーション(=因果論)」があるが、これは目的に対する最適な手段を追求するべく、予測を踏まえた計画を重視する考え方だ。一方エフェクチュエーションは「実効論」とも訳され、予測を一切必要とせず、極めて不確実な状況の中でも意味のある結果を生み出していくことを重視する。
具体的には、熟達した起業家の行動を5つの原則にまとめたプロセスモデルとして示されている。
原則の1つ目は「手中の鳥」と呼ばれるもので、まずは自分の手持ちの手段を評価し、そこから何ができるかを発想する。ここでの手段には、技術やノウハウはもちろん、知識や人脈、「自分は何者であるか」というアイデンティティなども含まれる。
先に説明した通り、ここで用いる手段が最適かどうかは考慮しない。そのため上手くいくかどうかは分からないが、上手くいかなかった状況で起きる損失が許容可能な範囲であれば行動に移す。これが2番目の「許容可能な損失」の原則だ。
まずは手持ちの手段で、許容可能な損失の範囲で行動を起こすと、そこで他者との相互作用が発生し、仲間やパートナーといった関係性をつくることができる。エフェクチュエーションではこのことを非常に重視する。なぜなら、パートナーや協力者ができることで手持ちの手段が増え、新しい目的も持ち込まれるからだ。これを「クレイジーキルト」の原則という。
ここで再びプロセスの最初に戻り、「我々の手持ちの手段から何ができるか」を考え、許容可能な損失の範囲で次の行動を起こすことで、また新たな他者と出会い、できることが増えていく。その過程では予期しない事態も起きるが、それを避けるのではなくポジティブに活用する姿勢を「レモネード」の原則と呼ぶ。
最初は起業家個人の手段から始まった行動は、このプロセスの繰り返しで拡大していく。ここまでで紹介した4つに、予測ではなくコントロール可能なことに集中するという「パイロット」の原則を加えた5つの行動原則により、起業家は不確実な状況の中でも行動を続け、新しい未来を作っていく、というのがエフェクチュエーションの基本的な考え方だ。