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紺野教授が東急を事例に紐解く、両利きの経営の誤解──伝統的大企業のイノベーションを阻む壁と乗り越え方

講演者:多摩大学大学大学院 紺野登氏、東急株式会社 東浦亮典氏

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東急が「組織的なイノベーション」を実現できる理由

 東浦氏の説明を受けて、紺野氏は改めて、東急こそ両利き経営の模範的なモデルだと指摘した。

 その特徴として挙げたのが「既存事業をアップデートしていること」だ。両利きの経営は「探索」と「深化」を両立させることで実現する。しかし、多くの企業では新事業での「探索」に力が注がれる。しかし既存事業の「深化」においても実は革新が重要なのだ。

 その点、東急では既存事業である鉄道事業を、「通勤鉄道」から「交流鉄道」にといった形で機能を変化させながら、ビジネスモデル全体の変革を図っている。

 しかし、長年に渡って定着した既存事業をアップデートするのはそう容易くはない。その過程には障壁も存在するはずだ。紺野氏は、東急がビジネスモデルを変革する際には、どのように壁を乗り越えたか尋ねた。

東浦亮典
東急株式会社 常務執行役員 都市開発本部副本部長 東浦亮典氏

 これを受けて、東浦氏は「もちろん壁にぶつかったことは一度二度ではありません」と回答。特に、東急はコロナ禍以前まで、渋谷駅周辺の再開発が成功を収めるなど、既存事業の業績が好調だった。そのため、ビジネスモデルの変革に疑問を呈する声も少なくなかった。だが、コロナ禍に伴う業績の急激な悪化が、組織内に強力な危機感を醸成し、ビジネスモデルを再考する機会に繋がった。

「コロナ禍の最中に、東急では経営層が集う合宿を複数回実施しました。各事業の部門長以上が一堂に会し、忌憚ない意見をぶつけ合う機会を意図的に設けたわけです。これは東急の100年の歴史のなかでも極めて稀有な取り組みだったと思います。

 平時であれば、それぞれの立場を慮って吐露できない本音を、腹を割って話し合うことができました。コロナ禍という危機に直面しなければ、自社のビジネスを根底から問い直すような青臭い議論は実現しなかったでしょう。こうした取り組みこそ、ビジネスモデルを変革する原動力になったと思います」(東浦氏)

 経営層が議論を通じて未来のビジョンを共有し、リーダーシップを発揮して、組織一体となったイノベーションを実践する。こうした東急の取り組みは、イノベーション・マネジメントシステムの国際規格ISO56000シリーズの理念と合致すると紺野氏は指摘した。

 ISO56000シリーズの特徴は、イノベーションを組織的な活動として捉えている点だ。そのため、規格に準じた組織を構築すれば、特定のイノベーターや外部のスタートアップに依存することなく、再現可能な形でイノベーションを創出できる。

 紺野氏は、伝統的大企業が近年注力するアクセラレーションプログラムやハッカソンなどが不振に陥りがちな点に触れ、「東急はアクセラレーションプログラム「Tokyu Alliance Platform」などのオープンイノベーション活動も好調だと聞いています。それは、東急が長い歴史の中で、イノベーション・マネジメントシステムとして経営システムや組織文化を醸成してきたからではないでしょうか」と述べた。

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資料提供:紺野登氏/クリックすると拡大します

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

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