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再現性のあるイノベーション経営の型

企業の垣根を越えたイノベーション創出を仕組み化する──経営者イノベーション・ラウンドテーブル【中編】

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大企業はイノベーションの「0→100」のどこを担うべきか

 2つめのトピックでは、システマティック・イノベーション、すなわちイノベーションを経営システムで起こす方法として、各企業が内部でどのようにして新たなアイデアを育て、具体的な成果に結びつけているのか。組織としての取り組み方やプロセスを中心に議論が展開された。下記はその議論からの一部である。

画像を説明するテキストなくても可

 ある参加者は、研究開発から経営まで携わってきた経験からイノベーションは偶然ではなく、経験を組み合わせて生み出すことができると実感したという。新規事業は「0から1」「1から50」「50から100」と段階的に進むが、それぞれのフェーズでプロセスを「型」として活用することで、成功の確率を高めることができるからだという。

 このうち、0から1のフェーズ、つまり「発見」は主にアカデミアやサイエンス領域で生まれ、企業はその後の1から10で「発明」や事業化フェーズを担う。この段階では、さまざまな要素と連携しながら、不確実性に対応しつつアジャイルにプロセスを進める必要がある。大企業のヒエラルキー型組織では、こうした柔軟な対応は難しいため、ネットワーク型の組織が必要だ。経営において重要なのは、プロジェクトの進展に合わせて徐々に組織を変化させることだ。

 これについて、別の参加者は、0から1を生み出すことにいくら成功しても、大企業にとっては大きな価値を持たないと指摘した。重要なのは、次代の主軸事業を生むことであり、事業をスケールさせる仕組みの整備が急務であると指摘した。一方で、シリコンバレーでは、すでにある程度スケールしたスタートアップを大企業がM&Aで取り込むサイクルが確立しているが、日本企業は0から1の段階を社内で進めることが多いため、分業体制が整っていないと言うこともできよう。

 これに対し、大企業とベンチャー企業が連携し、新規事業をスケールさせる実例の紹介もあった。リスクを双方で分担しつつ、自社のリソースを活用して収益化やスケールを図る仕組みであり、現在のエコシステムの欠点を埋めるねらいがある。一方で、一時期急増した「出島」の取り組みでは、本業と無理にコラボレーションを試みた結果、顧客層やリソースのミスマッチにより失敗に終わるケースが多かったと振り返る参加者もいた。

システム導入による持続的なイノベーション創出

 ある企業では、新規事業案件においては、発案者が異動するとプロジェクトが停滞してしまう傾向があるという。行政でも、担当者の短期間での交代が頻繁に行われるケースがあり、創造的な長期プロジェクトを遂行しにくい環境が生まれている。いずれにせよ、同一人物が長期にわたり一貫してプロジェクトを推進できる環境を整える必要があるとの指摘があった。

 また、異動が頻繁な場合、困難な時期に最も努力した人が正当に評価されず、成功直後に異動してきた人が評価されるという不公平が生じるため、過去の取り組みを正当に評価する仕組みを導入する必要があるとの意見も出された。社内ベンチャーなどではストックオプションの活用も有効だろう。

 一方で、システムや仕組みを活用すれば、経営者や担当者が変わっても、持続的なイノベーション創出が可能だとの意見も出された。本会議幹事のJapan Innovation Network(JIN)が取り組むイノベーション・マネジメントシステム(IMS)もその一手法である(JINは日本の代表機関として同規格の制定に関わっている)。IMSについては、今後、社内の活動について投資家の評価や株主はじめステークホルダーの理解を得るためにも、外部機関による認証が効果的だという意見が述べられた。

 大規模なイノベーションプロジェクトを推進するには個人の力だけでは不十分だ。チームワークを円滑に進めるためにはフレームワークが有用となる、という指摘もあった。また、社会情勢が急激に変化する中で、アジャイル開発のような型をとり入れることで、プロセス全体の効率性を高めることも求められる。ある参加者は、そのように型を学んだうえで、必要に応じて権限を飛び越え、人を巻き込んでいくことで変革が実現できるのではないかと語った。

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

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