大学も技術のみへの注力ではなく、総合的なイノベーションの推進を
ストックホルムのスウェーデン王立工科大学(KTH)の訪問では、「“イノベーションレディネス”レベル」という指標が印象に残ったという。国内のイノベーション推進を仕組みや知識の面でリードする同大学では、技術偏重の評価方法がもたらす課題を解決するため、こういった独自の指標を開発している。
一方、日本国内で広く活用される「テクノロジーレディネスレベル(TRL)」は、技術の成熟度を測る上で重要な指標だが、社会的・経済的要素を十分に考慮していない。たとえば、TRLがレベル8に達すると市場投入が可能とされる一方で、市場ニーズやビジネスモデル、他企業との連携など、技術以外の要素が十分な評価を行わないことが多い。この偏重が、日本のイノベーション創出における課題の一つとして浮き彫りになっている。
また、KTHでは、企業や研究機関、行政が連携するエコシステムの構築を重視している。三者がネットワークを構築し、それぞれの強みを活かして互いに補完し合う体制を整えることで、技術だけでなく、社会的・経済的価値を総合的に創出する取り組みが進められている。
一方、日本企業は自社内でイノベーションを完結させようとする傾向が強い。しかも多くの企業においては、社内で可能な取り組みはすべて行い尽くしており、さらなる成長には外部との連携が不可欠だと大嶋氏は指摘する。そして、そのためには、ISO56001をはじめとする、共通のフレームワークを使用し、異業種間で議論を効率的に進めることが重要だと話す。また、アカデミアは、技術シーズを発見するという従来の役割以外にも、イノベーションへの貢献が可能だとし、特に、アカデミアがエコシステム形成の場を提供し、産官学連携を促進する役割を担うべきだと述べた。
スウェーデンでは、特定の個人の才能に依存するのではなく、イノベーションを仕組みで推進し、多くのステークホルダーと協働するという発想が根付いている。市場原理だけでは対応が難しいスタートアップ支援も、地域に根付くエコシステムの中で初めて可能になるという。
さらに、大嶋氏は日本のイノベーション推進における課題として、大学の研究フェーズとベンチャーキャピタルによるシード支援フェーズの間に存在するギャップを指摘。この空白を埋めるためには、アメリカの寄付文化やヨーロッパの公的資金による支援のような仕組みが必要だと語った。
日本の産業界がIMSという共通基盤を活用し、産官学連携を深化させることで、スタートアップから大企業まで幅広い成長を支援できる環境を構築すべきだとし、大嶋氏は発表を締めくくった。