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大学をハブとした産学官連携とエコシステムの構築とは──経営者イノベーション・ラウンドテーブル【後編】

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産学官イノベーションエコシステムのハブ構想(IM Lab)

 第三ラウンドテーブルの最後に、この会議として「大学をハブとするイノベーションエコシステムに向けた場のプログラム」の提案が行われた。大学の持つリソースを高め活用することは財界からも求められているところだ。しかし、従来の企業と大学の関係は、一大学の一対一の担当者と研究者とのそれだ。

 この構想(IM Lab)は、大学の第3の機能(研究、教育あるいは雇用創出、に加えて地域や産業の知的融合の触媒機能)にハイライトを当てるものだ。新産業エコシステムを形成したい、そのためにイノベーション経営を浸透させたい、と思う企業側人材が垣根をこえて、ニュートラルな場に集まり、競争段階以前(プレ・コンペティティブ)の学習、探索的協業、エコシステム形成を試行する場である(年内に説明会を実施の予定)。

第三のラウンドを振り返って(紺野登)

 最後のテーマは、日本のイノベーション力、ひいては競争力を大きく左右する、研究開発に関わるものだ。大変多くの率直な意見が出されたが、これらを真摯に受け入れるべきだとの判断で(チャタムハウスルールに則って)議論の内容を紹介した。異論もあると思うがご容赦願いたい。

 よく「インベンションとイノベーションは違う。日本に必要なのはイノベーションだ!」と語られてきた。日本では「インベンショは強く、なぜ技術に勝るのにビジネスで勝てないのか?」というわけだ。確かにその通りだが、問いが間違っているのではないか?

 まず、技術起点の見方である。今求められるのは、環境の持続性を含めて社会的起点からの(社会的責任に基づく)技術の活用だ。次に、強いとされてきた日本の技術も相対的に弱ってきているということ。ラウンドテーブルでも指摘された通り、日本の博士号取得者数は世界に比べて減少傾向にある(実数、人口比ともに、伸び続ける米英独中と比べ)。博士をとっても食っていけない、という問題はこれまでも指摘されてきたが深刻化している。

画像を説明するテキストなくても可
人口100万人当たり博士号取得者/図版出典:一般社団法人 日本経済団体連合会「Science to Startup」(2024年9月17日)

 しかし、単なる呼びかけでは限界がある。求められるのは研究者のアントレプレナーシップ、そしてインベンションとイノベーションを包括する知識創造を核とした、イノベーション経営に基づく、社会・経済価値を実現できるような人材の活用だ。

 研究者のテーマを社会に積極的にアピールする、というのも大事な活動だが、やはり市民や企業がエコシステムの視点で方向を考え、その上に産学官で知識創造していく場を形成する姿勢が必要だ。ただし、その場を設けるのは、本来ニュートラルな大学の役割ではないかと思われる。こういった大学起点のエコシステムは欧米にはよく見られる例だ。いわゆるイノベーション・ディストリクトは大学がハブとなって企業、公共部門、都市開発などが関わって形成される。

 日本では「スタートアップエコシステム」といった用語もあるが、これはどちらかというとスタートアップが孵化・育成される場やコミュニティのことを意味する。しかし、今回のラウンドテーブルで議論になったのは、このようなスタートアップのコミュニティを部分として組み込んだ、より大きな産学官のイノベーションエコシステムである。ここが日本の一つの弱みともなっていると思われた。

 最近、パブリックセクター、プライベートセクター、第三セクターに続く第四のセクターという議論が欧米でも盛んだ(例えばプルーラルセクターともいう)。これは既存のセクターを超えた、社会や経済をバランスするためのセクターだ。提言されたIM Labは、大学をハブにした試みだ。

 今回のラウンドテーブルは、経営者、アカデミア、省庁からの論客が集まった。このメンバーを主軸に、その輪をさらにスタートアップや中堅企業などにも広げていく必要がある。今後のご支援を心から期待したい。ご参加の皆さまに、この場にて深く感謝いたします。

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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