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大学をハブとした産学官連携とエコシステムの構築とは──経営者イノベーション・ラウンドテーブル【後編】

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国内の産学連携はR&D部門の“アウトソーシング”なのか?

 3つめのテーマである「エコシステムや産学連携」について、まず大きなトピックとなったのが、日本と海外の産学連携のスタイルの違いだ。下記はその議論からの一部である。

 現在、日本の産学連携は年間約3万件に達しているが、1件あたりの予算は300万円程度にとどまることが多い。比較して海外のトップ大学では、大学が牽引するプロジェクトに数十億円の資金が集まることも珍しくない。業界によって多少の差はあるものの、資金規模が異なることは間違いない。

 この現状を踏まえ国内の産学連携は、いわば企業のR&D部門のアウトソーシングと変わらず、しかも経営陣が積極的に関与する大規模な取り組みはほとんど見られないとの指摘もあった。実際、民間のR&D投資総額は20兆円であるが、産学連携が占める割合は2%ほどで、OECD平均の約5%と比較しても低水準である。

 この背景には、まず、フェーズごとでの違いが挙げられる。

 ある業界の例だが、海外の大学では、量産化直前のプロトタイプ作成や特許取得までを大学が担い、その後の製品開発は企業がライセンスを取得して進めることが一般的である。一方、日本の大学はコア技術の開発に重点を置いており、企業との共同研究でも同様だ。開発を目的とした投資ではなく、基盤的なテーマの共同研究というスタイルだ。また、研究室と企業が数十年かけて教授や研究者と関係を築くなかで、一対一で連携を行っていることが多く、複数のステークホルダーでの連携はまだ少ない。

 関連して、大学内で発生しやすいシードやアーリー段階のスタートアップへの支援は充実してきたものの、その後のシリーズBやCで“成長の谷間”が生じているとの指摘が議論の俎上にあがった。

 シリーズBやCでの資金調達環境が不十分であるほか、この段階での専門家不足も課題として指摘された。アメリカではフェーズごとに資金調達やマーケティングなどにVCをはじめとして専門家がチームを組成し、スタートアップの成長を担うが、国内にはこうした専門家は少ない。金融やエコシステムに関する課題に対しては、一企業の取り組みだけでは限界があり、政府のリーダーシップによる変革が求められるとの声が上がった。

連携体制に不安のある国内ではなく、海外の大学との取り組みが増加

 他にも、知的財産が保護される海外大学とのプロジェクトに対しては、多額の資金を投入する日本企業も多いとの指摘もあった。逆に日本の大学については、ある日本企業では、重要な技術開発の際に秘密漏洩のリスクを懸念し、内製を選択することがあるという。日本では人件費の見積もりや知的財産権の取り扱いが不明確なまま進むことが多く、プロジェクト開始前に必要とされる取り決めが標準化されていない。

 このような状況が、先述のような小規模な共同研究スタイルにとどまる要因ではないかとの指摘もあった。実際、日本企業であっても、連携体制に不安のある国内の大学よりも、海外の大学との共同プロジェクトを選択するケースが増えてきており、約10倍の件数となっているというデータも共有された。

 研究者自身も、自らの研究の経済的価値を把握していないのではないか、という仮説も挙げられた。海外の大学は、研究と製品化を積極的に結びつける姿勢がより強く、教授自身がスタートアップを立ち上げるケースも少なくない。日本では研究者は、発表イベントなどを通じて自分の研究テーマに誰かが関心を持ってくれるのを待っているという傾向もある。

 同様に、日本ではアカデミアと産業界の間の人材の流動性が乏しい。特に、企業からアカデミア、アカデミアから企業への転職が進んでいない現状が、エコシステム全体としての活性化や、イノベーションの停滞を招いているという指摘もあった。

 博士人材については問題意識が高く、その活用について具体事例もあがった。ある日本企業では、研究開発センターで、200人の博士号取得者が実務に応用可能な研究に従事していると報告された。しかし、実用化にのみ取り組んでいると探求領域が狭まってしまうため、研究者の中には大学に戻る例もある。この企業では、この動きをむしろ歓迎し、研究者がより幅広い領域で活躍できるよう、流動性を高める仕組みを整備しているという。

 また、別の企業では博士号取得者を定期的に採用し、専門知識に加え「考え抜く力」を持つビジネス人材としての優秀性を実感していると述べた。

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大学を中心とした産学官連携とエコシステムの構築

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

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