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大学をハブとした産学官連携とエコシステムの構築とは──経営者イノベーション・ラウンドテーブル【後編】

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大学を中心とした産学官連携とエコシステムの構築

 日本のサイエンス分野の研究が事業開発と繋がらないという課題についても議論が行われた。

 アメリカではGAFAなど資金力のある企業が積極的に投資を行っている一方、日本では体力に限りのある企業が個々単独に資金を投入している。当然、投資額には数桁の違いがあり、比較すら難しい状況である。バラバラと個別に動いているがゆえにインパクトが弱い、という印象を共有する参加者も多かった。この現状を打破するためには、企業間での連携が必要との意見が複数上がった。

 しかし、連携を試みるだけでは不十分だ、との懸念も共有された。現状、仕組みとしては存在するはずの企業間の連携が、トップダウンでは行われても、うまく担当者同士の関係へと落とし込めず、形骸化してしまう例が多いという。さらに人事異動によって、専門性を持たない担当者が1、2年でローテーションしてきてしまうため、連携が途切れてしまう。

 こうした状況を変えるためには、人材の流動性を高め、複数のセクターを経験しつつ同じエコシステムで仕事をするシステムや規範、あるいは協業プラットフォームが必要だ。仕組みの上での連携と、ヒト対ヒトのレベルでの信頼関係を共に構築できる環境が求められている。

 アメリカでは実用化寸前の技術を大学から引き出し、政府や民間企業が協力して事業を育成するエコシステムが存在する。こうした、大学や企業、投資家が連携するクラスターの形成を促進するためには、もちろん、ノウハウを持った人材を海外から招くことも可能なはずだ。特に、核融合や量子コンピュータ技術など、日本企業が開発を進めている分野でのクラスター形成が急務であると指摘された。

 本来は競合となる企業をまとめ上げるためには、中立的な立場を取りやすい大学が中心となることが求められる。個々の企業と大学との共同研究ではなく、ある大学がプロジェクトオーナーとなり、企業が協力・投資を行うモデルには大きな可能性があるという。

大嶋洋一
東京科学大学(旧・東京工業大学)副学長 兼 オープンイノベーション機構 副機構長 教授 大嶋洋一氏(モデレーター)

過度な「選択と集中」を脱し、大学に資金獲得の能力を

 ヨーロッパでは地域の首長が主導し、地方自治体が特定のセクターに焦点を当ててオープンイノベーションを推進している例も多い。オープンイノベーション2.0あるいは3.0とも言われるが、自治体だけでなく欧州連合(EU)の財源を有効に活用するなど、企業が集まる環境を整えている。街によっては、大規模な施設を設けたり、研究室を誘致したりして、キャンパスのような形になっている例もある。

 一方、OECDのデータによれば、日本の大学や高等教育への投資は経済規模に対して他国の約半分にとどまっており、社会との接点を持つための投資が不足しているという。

 また「選択と集中」により資金が大規模大学やベテラン研究者に偏り、地方大学や若手研究者は資金不足に陥っている。目先のコスト削減が優先された結果、人材育成が軽視されているとの指摘があった。

 たとえば、半導体では、企業の新拠点や開発については経済産業省が数兆円を投入しているが、文部科学省が大学へ資金投入するのはそれよりも数桁少ない。産業に対する補助金だけでなく、それを支える人材育成や知の拠点としての大学への投資が不可欠だと述べられた。

 また、国内の大学が「選択と集中」の結果、教育と研究に特化しすぎたため、資金の確保や事業創出に必要な機能を担う人材が不足してしまったのではないか、と話す参加者もいる。たとえば、MITは東京大学の約10倍の研究資金を得ており、実用化や社会ニーズに応じた研究が進められている。国内の大学においても、そうした外部との関係の創出、そして財務リターンを安定して生み出すためのマネジメント機能を大学に持たせるべきだ。

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大学をハブとして地域の産学官連携を生み出していく

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

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