沖電気工業でISO 56000シリーズが浸透した理由
続いて、「IMS導入と認証への道」と題した対談が行われた。登壇したのは講演に引き続き沖電気工業の藤原氏、モデレーターはJINでディレクターを務める尾﨑弘之氏だ。
尾崎氏はまず、「沖電気工業ではイノベーションをどのように定義しているか」と質問。これに対して藤原氏は、「取り組みの開始当初は、新規事業=イノベーションという認識だった」と回答。しかし、この定義では既存事業のメンバーがイノベーションを“自分ごと”としない状況が生まれたため、イノベーションの定義を拡大。「新規事業の創出」「既存事業の革新」、そしてこの1年ほどで「業務の改善」が対象に加わった。

「間接部門であるコーポレートのメンバーもイノベーションに取り組むべきだという発想のもと、効果の大きな業務改善も対象に含めました。これら3つを定義したことで、『全員がイノベーションを起こす』という意識を生むことができたのは大きいです」(藤原氏)
次に、国内では製造業として初の事例となったISO 56002に基づく認証について、尾﨑氏が「取得に向けて難しかったこと、チャレンジングだったことは何か」を聞いた。
すると、藤原氏は意外にも「そこまで難しくなかった」と回答。ISO 56000シリーズにもとづいて活動していたイノベーションチームが主体となって取得したため、認証機関からの質問にはすべて答えられるなど、すでに準備が整っていた。「仕組み化できているか」「それを実践しているか」という質問へも実際に進行中のプロジェクトを見せたといい、「評価は高かったのではないか」と藤原氏は振り返った。
それを踏まえ、尾﨑氏は「沖電気工業はIMSの教育に力を入れている印象」とし、いかにしてIMSの浸透を図ったかを尋ねた。
これについて藤原氏は、「事業部長クラスのメンバーを巻き込んだ」と回答。沖電気工業ではISO 9001を導入しており、IMSについて「またひとつ、遵守が必要な事項が増える」と、一定の拒否反応が見られたという。そこで藤原氏は、事業部長クラスのメンバー一人ひとりとコミュニケーションをとり、導入の目的を丁寧に説明。最も響いたのは、「売れるものをつくるための規格」だという説明だった。
「新しいやり方を浸透させるいちばんのポイントは、事業部長クラスの人間の了承を得ることです。加えて1年半を費やし、全社プロジェクトとして社内IMSをつくりました。結果、いまでは新規事業を始めるときも既存事業で新しくサービスを生み出す場合も、IMSの最初のプロセスから着手するようになっています」(藤原氏)
対談の最後では、認証を取得したことによる社外からの反応について、尾﨑氏が質問。藤原氏は、「認証規格であるISO 56001が発行したことが大きい」と答えた。
ISO 56001は、2024年9月10日に認証規格として発行された。それまでも藤原氏は、多く問い合わせを受けていたというが、「認証規格になったことで、本格的に動き出す人が増えた」と話す。一方で、社内は社外ほどの反応を示していないとも回答。「会社のカルチャー変革に向けてイノベーションを訴え続ける必要がある」と付け加え、両名の対談は幕を閉じた。
