ディープテックのスタートアップがユニコーン企業になるには
政府の支援を活用する以外にも、ディープテックのスタートアップがユニコーン企業になるためには考えるとよいことがある。それは、ディープテックの技術の応用だ。
たとえばEX-Fusionはレーザーでの核融合の研究開発資金が必要だが、理論的には可能な核融合自体がいつ実現できるか、商用炉がいつ稼働できるのかは明確に打ち出すことはできない。となると、事業会社としてはそれだけに注力をするにはリスクがある。そこでレーザー核融合に必要な技術のうちの一部を応用し、たとえば高出力のレーザー加工機を作ったり、オーストラリアのEOS Space社と技術協力してレーザーでスペースデブリ(宇宙ごみ)を捕捉・除去する事業に取り組んだり、技術を安全保障領域で活用することも検討したりしている。
EX-FusionへのNEDOの支援も、実はレーザー核融合に対してではなく、こういったレーザーを応用する事業に対してのものだ。企業の持つ技術の応用で大きなビジネスを生み出せるのであればNEDOで支援を受けられる。その支援によって大きな市場を作り、レーザー核融合に必要となる研究開発費用を売り上げから賄えるのが理想だとEX-Fusionの松尾氏は話す。
富士通の松尾氏は、「一本足打法でないのがおもしろいですね」と称賛する。技術が様々なところに使えるだけでなく、その事業も確実に収益が上げられるところを狙って使っているからだ。また、こういった技術応用でスタートアップが事業を作る場合は、既存の事業会社が協業できる余地も大きい。スタートアップに欠けている、基礎研究はできても量産フェーズになるとハードウェアの知識や設備が必要になるなどのピースを、事業会社が補える可能性があるからだ。ディープテックであっても、こういった形であれば必ずしもリスクは大きいとは言えないと松尾圭祐氏は言う。
EX-Fusionの松尾氏は、こういった技術の応用で大企業と連携することには別の面でも意味があると話す。
「自分で言うのもおかしいですが、『レーザー核融合のスタートアップ』なんて、事業会社さんからするとかなり怪しい存在ですよね。しかし、きちんと収益が上がる事業でご一緒できれば、事業会社さんと信頼関係が築けて、その結果、レーザー核融合でもご協業いただけるかもしれません。弊社も手当たり次第、技術応用の事業を作っているわけではなく、あくまでレーザー核融合を軸として、それにつながる技術を開発し、企業さんと連携できるようにと考えています」(松尾一輝氏)