KPMGコンサルティングは、生成AIなどテクノロジーのイノベーションが著しいスピードで進む中、DXの推進状況や、DXの実現に向けて高いパフォーマンスを実現している組織の取り組みについてまとめた「KPMGグローバルテクノロジーレポート2024(日本語版)」を発表した。
同レポートは、KPMGが20年以上にわたりCIO(最高情報責任者)とテクノロジーリーダーを対象に実施してきた「CIO調査」の調査内容を発展させたもの。世界26ヵ国、2450人以上のテクノロジー分野の上級管理職を対象に実施した調査や、そこから導き出されたDXの実現に向けて高いパフォーマンスを実現している組織の取り組み、5名の企業のシニアリーダーと専門家へのインタビュー内容をまとめているという。
主な調査結果
FOMO(Fear Of Missing Out:取り残されることへの不安)の影響を受けながらも、組織は投資決定に対して、前年度の調査結果と比較すると、よりバランスのとれたアプローチをとっている。テクノロジー投資を優先する理由は、第1位が「サードパーティーからの助言(規制当局を含む)」、第2位が「自社内でのトライアル/概念実証(PoC)」、第3位は「競合他社がすでに採用」となった。
過去24ヵ月間にテクノロジーのすべてのカテゴリーで、平均87%の組織がテクノロジーを利用して利益を増大。2023年と2024年の両年で調査の対象となったカテゴリーでは、これらのシステムが自社の収益性に「プラスの影響を与えてきた」と回答した上級管理職の数が、前年比で25%増加している。
DXにおいて高いパフォーマンスを実現している組織にとって、「未対応の技術的負債(先送りにされた修正作業)」が新規アップグレードへの道をふさいでいることが、DXの進展を妨げる大きな課題の1つになっている。さらに、57%の組織が、ビジネスの基礎を担う「ITシステムの不具合」によって週1回の頻度で平常業務が混乱すると回答した。
また、組織は優先事項を、第1位「データのセキュリティ」、第2位「アクセシビリティ」、第3位「ガバナンス」としており、高いレベルのデータ活用能力を実現するために、組織はより強力なコンプライアンスプログラム、フレームワーク、および役割に関する明確な分担と責任体制の構築を通して、高度なデータのセキュリティ、ガバナンス、アクセシビリティを追求している。
AIの導入は加速しており、4分の3(74%)はすでにAIで利益を生み出しているものの、大規模に実施できている組織は3分の1(31%)にとどまった。パフォーマンスの高い組織の約半数(47%)は、AI実験の拠点となる専門組織(CoE:センター・オブ・エクセレンス)を作ることによって、AIの専門知識とイノベーションを統合している。
DXにおいて高いパフォーマンスを実現している組織の取り組み
①「ハイプ」(一時的なブーム)渦中での価値特定
同調査によると、パフォーマンスの高い組織は、進展速度を高めてDXを進めるにあたり、次の点に注意を払っている。
- FOMOに過度にとらわれない:パフォーマンスの高い組織は他の組織に比べ、「変化のペースに遅れないよう苦慮している」と感じている割合が23%低くなっている。さらに、「競合他社がすでに導入しているから」という理由でテクノロジーを選ぶ割合が、他の組織に比べて5%低いことがわかった
- 軌道修正を何度も繰り返している:テクノロジーへの投資の評価に、より積極的で順応性の高いアプローチを採用している。パフォーマンスの高い組織では83%がすべてのテクノロジー投資のビジネス上の価値と成果を継続的に評価しており、これは他の組織よりも17%高い値になっている。こうした常時継続型のアプローチによって、組織は必要に応じて介入し最適化する機会を創出しているという
- 主要な実証的証拠を活用する:投資前にテクノロジーイニシアティブの潜在的価値を予測・計算する割合が、他の組織に比べて21%高くなっている
- 外部の専門知識ソースに頼る:DXの意思決定を強化するために、パフォーマンスの高い組織の93%は自社のエコシステムとパートナーシップを拡大・強化する計画を立てている。これに対し、他の組織では70%にとどまった
- 技術的負債を認識する:他の組織とは対照的に、「未対応の技術的負債」をDXの進展を妨げる大きな課題の1つとみなしている。時間の経過とともにコストと複雑さが激増するのを避けるために、組織は一貫して技術的負債を解消するための投資を続ける必要があるという
②エビデンスに基づく決定による価値最適化
同調査によると、パフォーマンスの高い組織は、価値を定義して提供するという点において、次のことを行う割合が高くなっているとのことだ。
- 長期的目標に沿った価値主導の決定をする:パフォーマンスの高い組織は、日々の決定が必ず長期の戦略的目標と組織としての成功の定義に貢献できるようにしているという。パフォーマンスの高い組織の半数以上(53%)がテクノロジー投資のポートフォリオを戦略的に評価して、長期的目標と連携させており、その割合は他の組織よりも12%高くなっている
- 全員が同じ考えを持つ:増え続ける優先事項とステークホルダーの管理に課題が山積みであっても、パフォーマンスの高い組織は組織全体の強い団結によって、迅速な行動を実現しているという。たとえば、パフォーマンスの高い組織の90%がステークホルダーの合意を効率的に得られるのに対し、他の組織は18%低くなった
- パフォーマンス管理を常に実施する:意思決定に関わるデータの質と範囲を継続的に改善。たとえば、定期的に市場の変化に応じて価値トラッキングの測定法を検討・更新するとともに、定性的・定量的なインサイトを活用しDX計画を評価する割合が高くなっている
- リスクの監視とトランスフォーメーション推進のバランスをとる:テクノロジー投資の評価で最も重要な要素としてリスクとサイバーセキュリティの測定法を挙げており、87%はこれらの値を測定する能力に確信をもっている(他の組織は66%にとどまっている)。また、テクノロジー投資のポートフォリオがリスクの観点から「バランスのとれたもの」だと確信する割合が、パフォーマンスの高い組織では他の組織と比較して21%高くなった
③レジリエント(変化に対応可能)なソリューション提供
同調査によると、パフォーマンスの高い組織は、データ基盤を強化し、データを資産として利用しながら確実なDX実現に向けて、次の内容に取り組む傾向が強いことがわかるという。
- 投資を価値に結び付ける:データシステムへの投資を重要なビジネスステークホルダーの優先事項に合わせることを上位2つの優先事項としている一方で、他の組織では優先事項のトップ3に入っていない
- データハイジーン監査を習慣的に実施する:パフォーマンスの高い組織の80%は習慣的に、データを正確で一貫性のある最新の状態に保つデータハイジーン監査を実施して、データ整合性に関する不備に対応するとともに、データオーナーシップの枠組みを構築。他の組織では、これを戦略の基礎部分に含める割合が31%低くなっている
- 市場リスクに対応するためにデータおよび内部知識共有を利用する:データ中心の意思決定(61%)および内部知識共有(48%) によって、DX戦略を増大する市場リスクに対応させることが可能になっている(他の組織では、それぞれ43%と38%)。データインサイトによってリスクに対するレジリエンスを高めることができる一方で、内部の知識共有も非常に重要だという。従業員を教育して成果を伝え続けることで、組織は従業員に対して、プラスの方向への変化に適応し、それに貢献できる力をもたらすとしている
- データセキュリティを優先させる:パフォーマンスの高い組織では、「セキュリティ」が今後12ヵ月の間に向上させるべき重点領域であると回答した割合が、他の組織より9%高くなっている
④確信的なAI活用の拡大
同調査によると、パフォーマンスの高い組織はAIへの投資から、最大の価値を引き出すために、次のことをしている傾向があることがわかる。
- 幅広い従業員に対してAIの実験に参加するよう勧める:パフォーマンスの高い組織の約半数(47%)は、AI実験の拠点となる専門組織(CoE)を作ることによって、AIの専門知識とイノベーションを統合。これらの作業グループは、組織の各部署に所属する従業員で構成されている
- AIでスキルギャップに対応する:パフォーマンスの高い組織の89%は、AIを活用して知識労働者のスキルギャップを埋めており、これは他の組織より18%上回っている
- AIを利用してパフォーマンスを分析する:パフォーマンスの高い組織の93%は、AIまたは予測分析を利用してテクノロジーのパフォーマンスを測定しており、これは他の組織より23%上回った
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