生成AIは人間の創造性を高められるか
創発的関係を構築する
こうしたさまざまな実践の場で活用が進むなか、論点として頻繁に挙げられるのが、AIと人間の役割分担です。
重要なのは、生成AIが出力した結果をそのまま使うのではなく、人間が適切に判断し、解釈するという姿勢です。人間が問いを立て、評価基準を定め、意思決定する。生成AIが“正解”を大量に生成する。そんなふうに得意領域を組み合わせて創発することで、効率と品質の両立が実現できるようになります。

イノベーターDNAモデルと生成AI
人と生成AIの役割分担を考えるもう一つの切り口をご紹介します。「イノベーターDNAモデル」をご存じでしょうか。書籍『イノベーションのDNA』のなかで提唱された、イノベーターの思考・行動特性を説明したフレームワークです。
同書では、革新的なアイデアを生み出すための要素を以下の3つに分類して説明しています。
- 挑戦する勇気:リスクを取って現状に挑戦する能力
- 行動的スキル:質問力・観察力・人脈力・実験力などのスキルセット
- 認知的スキル:情報やアイデアを統合し関連づける力
これに生成AIがカバーできる範囲を照らし合わせてみると、「行動的スキル」と「認知的スキル」と相性が良さそうです。生成AIによってデータ収集やアイデアの統合が進むため、革新的なアイデアを生み出すプロセスが効率的になります。
一方で、「挑戦する勇気」については、人間が自ら取り組む必要があります。特に企業においてイノベーションを推進するためには、組織全体でリスクを受け入れる文化を育むことが不可欠です。生成AIを活用するための前提として、このような組織変革などの環境整備も同時に求められるのです。

人材育成への影響
「作業効率が高まることにより、生成AIの活用が人材育成を阻害するのではないか」と懸念される声もありますが、適切に活用することで逆に人材育成を促進する可能性があると考えます。
生成AIとの対話を通じて、多角的な視点や知識を獲得することができたり、自分が生み出したものに対するフィードバックループが高速化されたりすることで、より効果的な学習が可能になります。
ただし、生成AIとの対話だけでは十分な学習効果が得られない可能性も否定できません。生成AIからの回答に対して、なぜその提案をしているのか、計算の根拠は何かといった、自分が理解し納得できるレベルの情報を開示してもらうことが重要です。

共有知が生成AI活用を促進させる
生成AIは日々凄まじい早さで進化しており、実務への活用はまだまだ探索段階にあります。多様な立場の方の多様なチャレンジを発信して共有知とし、みんなで新しいメソッドを作っていく必要があります。生成AIという新しい技術がもたらす変化を楽しみ、その変化を自ら作り出していく姿勢が、これからの事業開発には求められるでしょう。