イノベーションに必要なのはルール未整備の領域に踏み込む勇気
大角:今後の目標について教えてください。
松本:一番大きな目標は、睡眠の代名詞になることですね。「睡眠のことならネミエル」と言ってもらえるくらい、社会にインパクトを残したいです。そのため、ひとまずはIPOを見据えて事業を運営していくつもりです。
そこに至るまでの過程では、PMFが大きな課題となります。現時点では「睡眠は企業ではなく個人の問題」と捉える企業が多く、「福利厚生として導入し、希望する社員に使ってもらえばいい」と言われることもよくありますが、セルフケアのレベルでは健康意識の高い社員しか利用してくれず、サービスを最も利用すべき社員に届きません。PMFを達成するためには、「社員の睡眠不足は、企業の経営課題だ」ということを、もっと多くの企業に理解してもらう必要があると考えています。
この啓蒙は長期戦になるので、それを持続させるための資金を確保しなければならないというのが課題です。
大角:その資金を確保するためには、コストを抑えつつ売上を上げなければならないと思いますが、どのような施策を検討していますか。
松本:まず、社内施策に関しては、組織規模を必要最低限に抑えるつもりです。DeNAが「AIに賭け、10人1組でユニコーンを量産する」と発表したように、今後は最先端のテクノロジーを活用すれば、人材を増やさずとも売上を上げられるようになるはずだからです。実際に当社も、元々外注していた開発プロセスを生成AIの活用によって内製化し、プロダクトに最新の知見を反映しやすくしました。
AIは開発だけでなく管理もできるので、その強みを活用して営業やマーケティングも最適化できないかと模索中です。「Nemielu」の営業モデルはSLG(Sales-Led Growth:営業主導の成長)で、営業人材がいることが前提になっていますが、これからは人の手が介入しなければならない部分を精査した上で、Web上で成約までのプロセスが完結するようなサービスプランも作りたいと考えています。
社外では、企業向けの人事サービスや健康関連サービスに「Nemielu」を組み込んでもらうことで、販路を拡大する施策を検討しています。ちなみに、睡眠測定サービスは競合と見なされる傾向にありますが、むしろ睡眠測定の結果を眠気測定で確認するといった相乗効果を生めるので、良好な協業関係を結べるはずです。
大角:最後に、松本さんが考えるヘルスケアイノベーションを起こすポイントについてお伺いします。日本では、国民皆保険という最強のサブスクがあるため、予防領域でのサービス展開は難しいと考えていますが、そこでイノベーションを起こすには何が必要でしょうか。
松本:ヘルスケア業界の規制を遵守した上で、ルールが整備されていなかったり議論されていなかったりする領域を見つけ、果敢に踏み込むことではないでしょうか。
大角さんのおっしゃる通り、日本では予防に対する意識が低いので、予防の重要性を様々な角度から「気づかせる」ことから始めなければなりません。誰もが興味を持つようなものが、結果的に予防につながっているという状態が理想ですが、結局のところ何が人々の興味を惹きつけるかはわからないので、時流の「種」にアンテナを張り、微妙な変化を捉えることが大切です。その際、ルールが未整備の領域にチャンスがあるのであれば、そこに積極的に進出して流行を作り出すことが、イノベーションにつながると思います。
大角:確かに、AirbnbやUber、LUUPなども、そうやってイノベーションを起こしてきた企業ですね。ヘルスケア業界でも、これからそのようなイノベーションが生まれるのでしょうか。ネミエルの今後の事業展開に期待しています。ありがとうございました。
大角氏のまとめ
ネミエルは、「眠気の可視化」というユニークなアプローチで、国家規模の睡眠課題に挑むスタートアップである。松本氏の「企業の変容なくして睡眠改善なし」という視点は、個人の行動変容に留まらず、組織全体の意識改革を促すものであり、ヘルスケア領域における新たな価値提案と言える。生成AIによる開発の内製化や営業最適化など、限られたリソースを最大限に活用する経営戦略にもスタートアップとしての革新性が光る。制度が未整備な領域に果敢に挑むネミエルは、まさに“眠気”から始まるヘルスケアイノベーションの先駆者だと感じた。