経営企画の役割は「参謀・推進者・翻訳者」
セッションの最終テーマは、「経営企画の本質的な役割」に関して。大企業とスタートアップでの経営企画の違いについて、小田氏は「大企業では各事業部門が独自のフィロソフィーを持つため、全体を調整する『フォロワーシップ』が重要です。一方、スタートアップでは事業を牽引する『リーダーシップ』が求められるのではないか」と分析。これに対し小林氏は、「求められるスタイルは違えども、アウトプットとして『何かを動かす』という目的は双方ともに同じです。そのために現場へ足を運ぶという本質的な行動は変わりません」と応じた。
議論の総括として、小林氏は経営企画の役割を3つのキーワードで表現した。
1つ目は、複数の事業の物差しを揃え、判断材料を客観的に提供する「参謀」。2つ目は、意思決定されたことを小さくても高速に回し、失敗から学ぶサイクルを促す「推進者」。そして、3つ目は、AIにはできない人間ならではの解釈やスタンスを加え、血の通ったストーリーを語る「翻訳者」という役割だ。
小田氏も「健全なコンフリクト(衝突)を意図的に起こし、建設的な議論から良い意思決定を引き出すこと。そして、下された意思決定を『正解』にまで持っていくことが我々の使命です」と締めくくった。

「データとロジック」と「物語と情熱」で組織を動かす
会場からの質疑応答では「社歴が長く、プライドも高い事業部門にどう聞く耳を持っていただくか」という質問が挙がった。両氏の答えは奇しくも一致していた。それは「ウェットな人間関係の構築」である。
小田氏は「一方的にコーポレートの都合だけを話すから聞いてもらえない。事業部門の事情も汲んだうえで、中立的な立場で話せば、聞いてもらえるはずです。そのためには日々のコミュニケーションで信頼関係を築くしかありません」と語る。
小林氏も、「『何も分かりませんから教えてください』という謙虚なスタンスで懐に入り込み、一緒にとことん飲みに行く。人間関係という土台ができていない中で数字の話をしても、何も伝わらないのです」と続けた。
これからの経営企画は、もはや単なる数字の番人ではない。データとロジックを左手に、物語と情熱を右手に、組織という生き物を動かしていく、極めて創造的な仕事なのである。そんなことを感じさせるセッションであった。