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生成AI時代のリスキリング

AI時代の企業変革のエンジン「スキルベース組織」への移行──リスキリングの最新潮流を後藤宗明氏と語る

【前編】一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事 後藤宗明氏

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「研修」ではなく「企業変革の一部」と捉えよ

後藤宗明
一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事 後藤宗明氏

栗原:日本企業では、リスキリングは依然として人事部の一施策と捉えられ、研修といった位置づけが多いように感じます。リスキリングが企業の経営戦略の一部であるという認識にはなっていないように思います。

後藤:そこが最も大きな課題です。リスキリング3部作の最新刊で一貫してお伝えしているのは、リスキリングは単なる「学習」ではなく、「全社的な企業変革(チェンジマネジメント)」そのものである、ということです。組織文化、人事制度、管理職の意識、キャリア設計のすべてを同時に変えていく、極めて複雑で難易度の高い取り組みなのです。

 いきなり「組織における学び」のスタイルやツールを変えるのではなく、なぜ会社が変わらなければならないのか、我々はどこへ向かうのかというビジョンを経営陣が示し、従業員の共感を得るプロセスが不可欠です。ハーバード・ビジネス・スクールのジョン・P・コッター名誉教授が提唱する「8段階の変革プロセス」に倣えば、まず「健全な危機意識の醸成」から始める必要があります。

栗原:後藤さんの最新刊では、チェンジマネジメントとリスキリングを結びつけて成功した海外企業の事例が紹介されていますね。

後藤:象徴的なのが、米国の通信大手AT&Tの事例です。2007年のiPhone登場で、同社はハードウェア中心の事業モデルに限界を感じました。社内調査で、全従業員25万人のうち10万人が10年後には消滅する職務に従事していると判明し、その事実を公表したのです。

 そして、ソフトウェア企業へ生まれ変わるという大胆なビジョンを掲げ、2013年から総額10億ドルを投じて10万人規模のリスキリングを開始しました。これは、危機の「見える化」によって全社の納得感を形成し、学習後の配置転換までを見据えた制度設計を行った、チェンジマネジジメントの好例です。

栗原:アパレルのリーバイスの事例も象徴的でした。

後藤:そうですね、リーバイスも危機をバネに変革を成し遂げました。コロナ禍のロックダウンで店舗売上が激減した際、同社はオンライン直販(D2C:Direct to Customer)戦略へと大きく舵を切りました。驚くべきは、外部からデジタル人材を採用するのではなく、店舗で接客をしていたスタッフをデータサイエンティストへとリスキリングしたことです。彼らを2ヵ月間、日常業務から完全に切り離し、集中的なブートキャンプを実施した結果、D2C戦略を成功に導きました。これは、従業員の潜在能力を信じ、大胆な配置転換を断行した経営陣の覚悟の表れです。

栗原:どちらの事例も、経営トップの強いコミットメントが変革の鍵となっていますね。

後藤:おっしゃるとおりです。しかし、日本の経営者の中には「リスキリングを導入すると社員が転職する」「業績が好調で変化は不要」などの理由で、リスキリングに消極的な方も少なくありません。

 リスキリングを推進する責任者の方が経営者の同意を得るためには、いくつかのアプローチがあります。たとえば、経営者の興味・関心(売上拡大やコスト削減)とリスキリングを結びつけるストーリーを作ったり、退職リスクは短期的なもので、長期的には優秀な人材が集まるメリットを伝えたりすることが有効です。また、いきなり全社展開を目指すのではなく、小さな成功体験を作る「スモールスタート」を提案することも重要です。変革には抵抗がつきものですが、その本質を見極め、粘り強く、戦略的にアプローチすることが求められます。

次のページ
リスキリング3.0の真骨頂「スキルベース組織」とは

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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