リスキリング3.0の真骨頂「スキルベース組織」とは
栗原:チェンジマネジメントの重要性を理解したうえで、具体的にどのような組織を目指すべきでしょうか。「スキルベース組織」がキーワードになりそうですね。
後藤:はい。リスキリング3.0時代の核となる概念が「スキルベース組織(Skills-Based Organization)」です。これは、一言で言えば「スキルを起点とした雇用システム」のことです。従来の「ジョブ(職務)」や「役職」を基点とした人事制度から、個人が持つ「スキル」を基点とした制度へと移行する、大きなパラダイムシフトを意味します。
スキルベース組織への移行が求められている背景には、いくつかの要因が複合的に絡み合っています。コロナ禍からの急激な景気回復による世界的な人材不足、テクノロジーの進化、特にAIによるスキルの可視化が可能になったこと、そして企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)実現に向けた人材ポートフォリオの再編が急務であることなどが挙げられます。

この図が示すように、スキルベース組織は外部労働市場からの「スキルベース採用」だけでなく、内部労働市場(社内)における「スキルベース人材育成」に重点を置いているのが大きな特徴です。採用コストをかけて外部から人材を探すだけでなく、リスキリングを通じて社内の人材を成長分野へ配置転換していくことで、組織全体のスキルレベルを向上させ、持続的な成長を目指します。
栗原:従来の「ジョブ型雇用」とは、具体的に何が違うのでしょうか。
後藤:最も大きな違いは、「ジョブ」を分解して捉える視点にあります。

従来のジョブ型雇用では、「営業部長」や「データアナリスト」といった1つの固まり(ジョブ)に対して人を当てはめていました。一方、スキルベース組織では、1つのジョブをより細かい「タスク」や「プロジェクト」の集合体として捉え、それぞれに必要なスキルを紐づけて整理します。

たとえば、この図のように「地方自治体向け営業(ジョブA)」と「地方自治体向けアナリスト(ジョブB)」という2つの職務があるとします。両者には「1:自治体対応」や「2:企業対応」といった類似スキルが存在します。一方で、ジョブBには「3:データ分析」というジョブAの担当者が持っていないスキルが必要です。
従来であれば、ジョブBのポジションが空いた場合、データ分析スキルを持つ人材を外部から採用するしかありませんでした。しかし、スキルベース組織では、ジョブAの担当者がリスキリングによって「3:データ分析」スキルを習得することを前提に、社内での配置転換を促すことができます。これにより、採用難の時代でも柔軟な人材配置が可能になり、従業員にとっても新たなキャリアパスが開けるのです。
さらに、部署の垣根を越えた「スキルの貸し借り」も可能になります。たとえば、人事部が採用マーケティングでWeb広告に関するスキルを必要とする場合、マーケティング部の担当者が業務時間の一部(例:20%)を使って支援するといった、柔軟な働き方が実現できます。これは、従業員エンゲージメントの向上にもつながる、非常に有効なアプローチです。