未来の組織の働き方、専門性が融合する「PODシステム」とは

栗原:お話をお聞きするなかで、特にコーポレート部門の未来像が浮かびました。今は人事や財務、経営企画などが分かれていますが、反復作業や専門知識の価値が低減し、AIに業務の多くが代替されると、コーポレート部門が統合された一つの職種に凝縮されていくのではないでしょうか。企業戦略を担う「スーパー・コーポレート職能」のような。
後藤:まさにおっしゃるとおりです。その統合された役割を担える人が、次世代の経営者になっていくでしょう。そのために有効な働き方として、テック企業でよく用いられる「ポッド(POD)システム」があります。
これは、ある目的を達成するために、営業、エンジニア、法務といった様々な専門家で一時的な対策チーム(ポッド)を組む、職能横断型の自律的チームのことです。普段は関わらない専門家たちと密に協業する中で、自然と互いのスキルや知見が移転していくのです。

この図のように、PODを起点として組織内でスキル移転が活発化することで、個人は自身の専門性を広げ、学際的スキルを効果的に育てることができます。AIによって個々のタスクが自動化されると、こうした部門横断的な働き方はますます加速するはずです。
そして、この学際的スキルを突き詰めていくと、最終的には一人ひとりが固有のユニークなスキルセットを持つ「IDスキル」へと進化していくと考えています。Interdisciplinary(学際的な)の「I」と「D」を取った私の造語ですが、まさに身分証明書(ID)のように、その人だけの価値を証明するスキルセットです。
正解のない未来において、計画的にキャリアを築くことは困難です。しかし、目の前の仕事に真摯に取り組み、新しい挑戦を続けることで得られた経験は、必ず未来のどこかでつながります。多くの人にとって、リスキリングは決して楽な道ではありません。しかし、現在の自分のスキルに新たなスキルを掛け合わせ、自分だけの「IDスキル」を磨き続けることこそが、AI時代を生き抜くための最も確実な戦略なのです。