業務が変わる「予算」と「実績」の捉え方
予実管理の具体的なポイントに入る前に、まず「予算」と「実績」の捉え方を整理しておきましょう。

予算とは事業のありたい姿、すなわち「事業の意思」を数値化したものです。そのため、経営企画部門の担当者は事業戦略の意図を読み解く気持ちで予算と向き合わなくてはなりません。「なぜその数値になっているのか」「トップダウンの経営方針とボトムアップの事業計画がどう織り込まれているのか」「達成するために必要な要素(KPI)と施策は何か」このような視点で予算を見れば、事業理解が深まります。
その際に重要なポイントは、予算を作成した事業部門の責任者に直接話を聞くことです。単に手っ取り早いからではありません。適切に事業を捉えるため、またその姿勢を示すことで、事業部との信頼関係を築けるためです。ここで築いた信頼は、将来的に経営企画部門から事業部門に協力を求める際の大きな力になります。
予算を策定するタイミングや着地見込みを計算するタイミングで慌てて事業理解を深めても意味がありません。常日頃から事業戦略とその進捗を追うことが大切です。そうすれば、いざ予実差が生じた際も要因を突き止めやすくなります。
予算が事業の意思なら、実績は「会社の実態」を数値化したものです。改めて実績の出し方を整理してみましょう。一般的には、仕訳帳や総勘定元帳といった財務会計の元データを集計し、部門別・事業別・プロジェクト別などで加工して管理会計の数値を作成します。あるいは実務上、財務会計を元に管理会計を加工するのではなく、両者を異なるデータモデルとして並行運用するケースもあります。
いずれにせよ重要なことは、少なくない企業が財務会計とは“別に”自社独自の管理会計を構築しているという点です。わざわざ体系を分けてまで管理する背景には、その企業なりの意図があるはず。だからこそ「何を見ようとしているのか」という目的を把握する必要があります。
人件費を例に取ると、財務会計では賞与や法定福利費、退職金などを含めて正確に管理しなければなりませんが、管理会計上は「役職ごとの平均給与×人数」といった概算で管理している企業も多いでしょう。細々とした財務会計のルールを事業部門にそのまま適用しても、手間ばかりが増えて成果につながらないため、あえて管理会計でルールを変えているのです。
ただし、両者の差=財管差(※)が広がりすぎると、事業上で適切に管理できていても、財務上では大きく異なる結果が表れるリスクがあります。企業の業績は最終的に財務会計で表現されるため「管理会計が財務会計とどう異なり、その差が財務会計にどう影響するか」を理解しておくことが不可欠です。
※管理会計上の実績数値の扱いを財務会計の数値と分けて管理する際に生じる差異
最初に押さえるべき予実管理の4ステップ
では、予実管理の標準的な流れを見ていきましょう。基本は次の4ステップです。
1.予実の比較表を作成する
2.予実差異の原因を推定する
3.事業部門の責任者にヒアリングする
4.原因を特定する
たとえば、ある事業部門の広告宣伝費について、実績が予算を下回っていたとします。詳細を調べると、予算に計上されていた展示会の出展費用が実績には反映されていないことがわかりました。この場合、経営企画部門の担当者は次の原因を推定します。
・展示会に参加せず別の施策に予算をアロケーションした
・展示会に参加したものの支払いが遅れている
この推定を基に事業部門の責任者にヒアリングした結果「別の施策に予算を振り替えた」という回答を得ました。実際に他の項目で費用が計上されていることを確認し、原因特定に至ったのです。
このプロセスにおけるポイントは、経営企画部門の担当者自身が原因を推定すること、そしてファクトを押さえることです。前述したとおり、実績は会計処理などを通します。そのため、事業部門の責任者が実態を正しく把握しているとは限りません。実態を把握せずに何となく進めた結果、誤った判断に結びつくことは大いにあります。事業部門の責任者と一体になって予実管理を行いつつ、数字の正しい理解に対する責任は経営企画部門が持つ。この姿勢を忘れないことが重要です。
