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AI時代の両利きの経営

Agentic AI同士が交渉し、新たな経済圏を創る──NECが描くAIの進化と日本企業の勝ち筋とは

ゲスト:日本電気株式会社 森永聡氏、千葉雄樹氏

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自動交渉AIの「強さ」はどう決まるのか

小宮:AIはどのように「交渉」を学習するのですか。「強いAI」と「弱いAI」が出てくるのでしょうか。

森永:「将棋AI」に似ており、3つのアプローチがあります。

 1つ目は、人間がルールをプログラムする方法。2つ目は、「過去の交渉データ(棋譜)」から成功パターンをまねる方法。3つ目が、AI同士で「模擬交渉(練習試合)」を無数に繰り返し、AI自身に試行錯誤させる方法です。

小宮:現在は3つ目の「練習試合」が主流ですか。

森永:はい。ここ数年は、模擬試合で学習する「強化学習(RL:Reinforcement Learning)」を使ったAIが最強です。強化学習とは、最適な結果を得るための意思決定を行えるようにソフトウェアをトレーニングする機械学習 (ML:Machine Learning) の手法の一つです。

 われわれは、この技術を競う「自動交渉の国際競技会(ANAC)」で、「SCMリーグ」部門を2019年から主催しています。仮想経済空間内で各チームの自動交渉AIが、部材売買や製造計画を行い、「最大利益を獲得したAI」が勝者となる競技会です。

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小宮:ユーザーの使い方によって、AIを「育てていく」ことは可能ですか。

森永:はい。「リターン最大化」か「安全性重視」かなどといった、方針をAIに設定できます。

 さらに、AIの商談結果に人間が「良い」「悪い」とフィードバックを与えれば、AIは「自社の方針に沿った」交渉スタイルを学習し、育ちます。

Agentic AIで日本企業が勝つための政府の役割

小宮:「X-as-an-Agent 経済圏」への移行にあたり、技術以外の日本特有の障壁はありますか。

森永:技術はほぼできています。課題はエコシステムやユーザー側にあるかと思います。

 特に日本企業は「他社がやるなら自社も」という傾向が強く、様子見でどなたも動かない「お見合い状態」に陥りがちです。フェーズ3は、関係者が一斉に参加しないとメリットが出ない「ネットワーク外部性」が働くためです。

小宮:膠着(こうちゃく)状態の打破には何が必要ですか。

森永:政府の役割が重要です。産業競争力向上には「技術」だけでなく「経済圏」の形成・発展が必要だからです。政府による「経済圏を形成・発展させる」という強いコミットメントが、ネットワーク外部性を突破する号砲となります。

 あわせて、交渉プロトコルの国際標準化(NECもUN/CEFACTで「Negotiation」標準化を推進中)やガイドライン開発の後押し、AIが活動しやすい制度・規制整備も政府に期待します。

千葉:日本企業は失敗リスクを恐れ、新技術採用に踏み切れない面があります。

 たとえば「特区」を設け、失敗を許容しリスクを共有しながら先進的な取り組みを試せるようにする。そこで生まれた成功事例や「失敗の乗り越え方」という知見を共有できれば、導入企業も増えるはずです。

今すぐ取り組むべきこと

小宮:エージェント経済圏の移行に向けて、日本企業がまず手をつけるべきことは何ですか。

千葉:まず人の仕事をAIで代替し、AIとのインターフェースに慣れることです。次に「片側がエージェントになるだけで交渉コストが劇的に下がる」ことを体感するステップが来ます。

 そこまで行けば、エージェント同士がやり取りする未来への期待が、実感として醸成されるはずです。「AIネイティブ」と言いますが、AIが同僚として日常業務に入り込むプロセス変革を、各社が今から起こすことが重要です。

小宮:「自動交渉AI」導入における課題は。

森永:本当の課題は、日本企業の「社内ITシステムが貧弱」なことです。

 自動交渉AIを導入しても、AIが必要とする社内データ(生産計画、取引実績、在庫状況など)がIT化されていなければ、AIは何もできません。

小宮:プライベートデータや暗黙知がデータ化されず、AIに「食べさせる」データがない、と。

森永:はい。必要なデータがなければ、AIは安全マージンを取った不利な条件でしか交渉できません。逆にリアルタイムのデータが豊富なら、ギリギリの「無理・無駄のない」交渉が可能です。

 SCMの劇的な効率化は、「内部効率化(社内IT)」と「外部との調整効率化(自動交渉)」の掛け算です。「内部効率化」という足腰が弱いと、高度な自動交渉AIを導入しても効果は半減します。

 日本の勝ち筋は、まず自社の足腰を強くし、必要な社内IT化を断行すること。そのうえで先進的なAI技術を動かす。これに尽きます。

小宮:現実的な課題と処方箋まで示していただき、ありがとうございました。

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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