社長を「応援」し、時に「クビ」にする社外取締役の役割
林:長期政権が独裁化するリスクについてはどうお考えでしょうか。
入山:そのためにあるのが「コーポレートガバナンス」です。ガバナンスの要諦は、社外取締役を中心に、長期で価値を出せそうにない社長をクビにすることです。言い換えれば、社外取締役の最大の仕事は「社長の目利き」だということです。「この人は長期で任せたら価値が出せる」と思えば全力で応援するし、そうでなければ1年でクビにする。それだけの能力と、刺し違えるだけの胆力が必要です。
麻生:「応援」というのは、具体的にどういうことでしょうか。
入山:私が社外取締役を務める三桜工業という自動車部品メーカーの事例をご紹介します。自動車業界はEV化などで構造変化が激しい。そこで「合宿をやりましょう」と提案して、最初に今後30年の売上予測を出してもらったんです。そうすると、将来的にガクッと落ちるのが目に見え、ようやく本気で新規事業をやる機運が生まれました。
そこでデータセンターの配管事業などを始めたのですが、最初は結果が出ません。そんなとき私がやるのは、取締役会で「素晴らしいですね、もっとやりましょう」「いくらでも応援します」と言い続けることです。
麻生:なるほど、「イノベーティブであれ」とけしかけ、挑戦を守るのがガバナンスなんですね。
入山:そうです。しかし、今の日本の社外取締役は、“質”に問題がある場合が多い。無難だからという理由で、経営の現場を知らない大学教授などが就任しているケースがあります。 本来、社外取締役は社長よりも怖くなければいけない。なぜなら社長をクビにできる権限を持っているからです。気合いと根性がない人は務めるべきではないんですよ。

リクルート、ロート製薬のM&Aに学ぶ「東洋医学」的なアプローチ
林:イノベーションを起こすための組織作りについて伺います。麻生さんはリクルートのご出身ですが、リクルートはなぜあんなに次々と新しい事業を生み出し、Indeedのような巨大な買収を成功させられるのでしょうか。
麻生:リクルートがIndeedを買収して伸ばせた背景には、それ以前に「膨大な数の新規事業」と「徹底したIT化」をやってきた歴史があります。その膨大な試行錯誤によって蓄積された知的資本と人的資本があるからこそ、Indeedを買うという目利きもできたし、買った後にPMIして伸ばすことができたんです。
今回の『新規事業の経営論』で描いた経営システムの最後は「巨大なM&A」に行き着くようになっていますが、いきなり買えばいいという話ではありません。
入山:本当におっしゃるとおりで、私はこれを「東洋医学」と「西洋医学」で例えています。
多くの企業は、普段何も運動していない冷えた体で、いきなり「イノベーションだ!」と言って巨額のM&Aやオープンイノベーションという「外科手術(西洋医学)」をしようとする。これは失敗します。 大事なのは「東洋医学」的なアプローチです。リクルートのように、日頃から新しいことにチャレンジし、失敗も許容して、常に変化に慣れている「体温の高い」状態を作っておくこと。これが組織の習慣になっていれば、いざという時の大勝負も成功させられます。
林:ロート製薬による漢方企業「余仁生(ユーヤンサン)」の数百億円規模の買収も、そうした「体質」があってこそなんですね。
入山:ええ。ロート製薬は普段から新規事業にチャレンジすることを推奨していますし、数億円単位の投資案件も取締役会に上がってくるようにしているので、経営陣も現場も「新しいことをやること」に慣れきっています。だから大きな買収でも淡々と実行できるんですよ。
