CAIOの理想と現実のギャップ、必要なスキルと連携組織
CAIO自身が考える役割と、実際に現在設定されている役割との間にはギャップが存在する。
CAIO自身が必要だと認識しているにもかかわらず、実際に行えていない役割のトップ3は、AIのリスク管理(7pt差)、AI人材の採用・育成(6pt差)、エグゼクティブへのAI教育・啓発(5pt差)であった。この結果は、多くのCAIOが、目の前の成果創出に集中し、AI活用を広めるための下準備、すなわち「企業の文化に浸透させていくための土台作り」になかなか注力できていない現実を示している。
また、CAIO組織の専門人材ポートフォリオを見ると、正式なCAIOを設置している企業では、ビジネスアナリストやUX/UIデザイナーといった非技術系人材の登用が増加している。これは、生成AIの登場によりノーコード・ローコード開発環境が整備され、AI活用が民主化するなかで、開発者よりも業務知見者が一層求められるようになっていることを示している。
CAIOと他のCxOや部門長との連携についても、成果領域ごとに最適な形が存在する。
コスト削減や新規収益源創出は、CEO、事業部門長、CFOなどの関係部門と連携している方が成果創出の割合が20pt前後高くなっている。一方で、顧客体験向上では連携の有無による成果創出の差が小さく、場合によってはマイナスになる領域も見られた。塩原氏は、これは既存の考え方に縛られない変革が必要な領域においては、基本の連携体制を保ちつつも、CAIOに独立した権限を与えるなど、柔軟な体制構築が求められることを示唆していると解説した。
企業変革を成功に導くCAIOの3つのペルソナ
アンケート分析結果とインタビューから、PwCは想定されるCAIOのタイプを「業務効率化重視」「新規ビジネス創出重視」「AIの将来ビジョン重視」の3つに分類した。企業は、創出したい成果にかかわらず、以下の横断的な要素を整備する必要がある。
1つ目の「業務効率化を重視するCAIO」は、コスト削減や業務効率化のさらなる推進を成果とし、属性としては、既存業務のコスト構造に精通している社内登用が主で、前任はCIOなど、AI活用計画は3年未満の短期計画を持つことが多い。
2つ目の「新規ビジネス創出を重視するCAIO」は、新規収益源やビジネスモデルの創出を成果とし、属性としては、技術知見と顧客ニーズを結びつける変換力を持ち、データサイエンス/AI技術に専門性を持つ社内登用が主で、AI活用計画は5年以上の長期計画を持つことが多い。
3つ目のAIの将来ビジョンを重視するCAIOは、AIによる意思決定支援の高度化やAIガバナンス・倫理的利用の確立を成果とし、属性としては、中長期での大きな価値転換を予見し、ビジネス戦略・組織改革に専門性を持つ社外登用が主で、AI活用計画は5年以上の長期計画を持つことが多い。
読者への示唆:データとAIガバナンスが推進の羅針盤となる
本調査レポートが読者に与える示唆は明確だ。DX推進や新規事業開発を担う経営企画部門は、自社のAI戦略の目的を再定義し、その目的を達成するためにどのような専門性・登用方法を持つCAIO(または同等のリーダー)が最適なのかを深く検討すべきである。
そのうえで、AI活用を長期的に成功させるための土台として、横断的に以下の2 つの要素を整備することが不可欠である。
1つ目は「データマネジメント」だ。CTO(Chief Technology Officer)やCDO(Chief Data Officer)と密接に連携し、AI品質を左右するデータマネジメントを管轄できる体制が必要となる。
2つ目が「AIガバナンス」になる。AIを安心安全に活用できる環境とルールを整備し、責任あるAIの推進と統制を両立することが、どのCAIOにとっても必要である。
この提言は、AIを全社戦略に統合し、短期的成果を求める経営層に対し、CAIOが長期的視点に立って認識合わせをすることの重要性を改めて示している。自社のAI活用における「羅針盤」となるCAIOの選定・育成こそが、AI経営の成功を分ける最重要条件であると言えるだろう。
