2025年12月17日、キリンのヘルスサイエンス研究所と富士通は、AIを活用した創薬DX技術によるシチコリンの腸脳作用メカニズム解明に関する共同研究成果を発表した。本研究には、富士通とパートナーのフランスのノバインシリコ社が持つQSP（定量的システム薬理学）技術によるバーチャル被験者シミュレーションと細胞モデル実験が用いられた。

　創薬分野では従来、時間やコストがかかる上、ヒトでの有効性証明には限界があった。一方、医療ニーズの多様化や動物実験の制約が強まる中で、AIやデータサイエンスを用いたDX技術の導入が注目されている。特にバーチャル被験者を用いたin silicoシミュレーションは、動物実験を行わずヒトでの有効性証明確度を上げる技術として、食品機能性研究でも活用が進みつつある。

　今回の研究では、キリンが得たデータや文献情報をもとに、AIやQSPモデルでシチコリンの食品機能性を評価した。具体的には、シチコリンの経口摂取によって腸の神経でコリン作動性シグナルが高まり、シナプス内のアセチルコリン量が用量依存的に増加することをシミュレーションで予測した。さらに、腸管上皮細胞と神経細胞の共培養系でも、シチコリンの腸を介した神経活性化を実証した。

　AIを用いた本研究から、シチコリンが腸を介して神経を活性化する可能性が示唆され、細胞モデル実験でもその裏付けが得られた。腸の神経は脳と密接につながっていることから、今回の成果はシチコリンの腸脳相関メカニズムの一端を明らかにしたものといえる。

　食品機能性研究へのDX技術の本格導入は、効率的なR&Dや新たな科学的知見の創出につながる。シチコリンの新たな生理機能解明は、健康機能性素材としての価値向上に貢献する見通しだ。なお、今回の成果は主に海外市場でのBtoB用途を想定している。

　キリンは「食と健康」をテーマに価値創出を目指し、富士通は先端技術による創薬と機能性食品開発を支援し続ける方針である。DX推進がヘルスサイエンス領域にも波及し、関連事業や研究分野の変革が期待される。

【関連記事】
・キリンHD、ビール香味特定AI「FJWLA」を開発し商品開発を高度化
・キリンホールディングス、「キリングループ AIポリシー」を策定
・キリンホールディングス、経営層の意思決定を支えるAI役員「CoreMate」を本格導入