「事業性融資推進法」がもたらす、経営管理の大きな変化
続いて登壇したIMA日本支部理事の矢理田圭氏は、2026年6月から施行される「事業性融資推進法[2]」が、経営管理の在り方に決定的な変化をもたらすと指摘した。
「これまでの融資は、不動産担保や個人保証に依存してきました。しかし、新法では『事業性評価』、つまり事業が将来生み出す価値そのものを担保に融資を行う流れが加速します」と矢理田氏は説明する。
ここで重要になるのが、銀行と企業の間の「コミュニケーション・ツール」としての数字だ。単なる過去の決算書(財務会計)ではなく、将来のキャッシュフローを予測し、モニタリングするための「管理会計」のデータが不可欠になる。
「トップガン(精鋭パイロット)がいなければ空の戦いに勝てないように、経営管理を回せる人材がいなければ、事業性評価に基づく融資も経営改善も成立しません」と矢理田氏は述べ、金融機関と企業側双方におけるFP&Aスキルの必要性を強調した。
US-CMAの日本語化がもたらす好循環
FP&Aを実装するための具体的手段として、IMA Regional Directorのマルセル・エバルス氏は、管理会計の国際資格「US-CMA(米国公認管理会計士)」の日本語化について発表した。
US-CMAは、財務計画や意思決定分析、リスク管理など、まさにFP&Aに必要なスキルを網羅する世界標準の資格だ。これまで英語での受験が障壁となっていたが、日本語で受験可能になることで、日本国内の人材育成が加速することが期待される。
「管理会計は特定の国だけで通用するスキルではありません。AIの進化やサイバーセキュリティのリスクが経営を揺るがす現代、CFO組織には、変化に対応し続けるための知識基盤が必要です」とマルセル氏は語る。
石橋氏も、労働市場の変化を背景に「若い世代が自らのキャリアを守るためにも、グローバルで通用する管理会計のスキルは最強の武器になる。最後には経営者や真のCFOを目指してほしい」と、次世代のリーダーたちへエールを送った。
「守りの財務」を脱し、事業のパートナーへ
本セミナーを通じて明らかになったのは、日本企業が抱える「経営管理の空白」だ。DX推進や新規事業開発を担うリーダーが、今後取り組むべきアクションは以下の3点に集約される。
- 「事業部FP&A」の構想:財務数値を事業戦略に翻訳し、現場の意思決定を支援する役割を組織内に定義する。
- 管理会計スキルの再武装:外部報告のための会計から、将来を予測し価値を創るための「管理会計」へと教育の重点を移す。
- 非財務指標とキャッシュフローの連結:DXや新規事業が、最終的にどのように将来のキャッシュフローを増やすのか、その論理構造をFP&Aの視点で構築する。
「守っているだけでは価値は上がらない」という石橋氏の言葉は重い。管理会計を武器にしたFP&Aの導入こそが、日本企業の「失われた30年」を終わらせ、持続的な価値創造を実現するための羅針盤となるはずだ。
(中)米国管理会計士協会(IMA)日本支部 共同代表 石橋善一郎(いしばし・ぜんいちろう)氏
(右)株式会社日本代替投資研究所 代表取締役 鎗田良信(やりた・よしのぶ)氏
