金融と事業の双方を知るCFOの覚悟と1兆円買収後の財務基盤強化
池側千絵氏(以下、池側):まず、染宮さんのこれまでのご経歴と、レゾナックにおける現在のミッションについてお聞かせいただけますか。
染宮秀樹氏(以下、染宮):私はキャリアのスタートが金融界で、メリルリンチ、JPモルガンといった投資銀行に約16年間在籍し、テクノロジーや電機業界のM&A・業界再編に携わってきました。21世紀初頭に日本の電機産業が衰退していく中で、「経営トップが最終決断を下せないために会社がおかしくなっていく」という強いもどかしさを抱き、47歳で事業会社へ転身しました。アドバイザーとして外から見るのではなく、自分自身が意思決定者として当事者になりたいとの思いが原動力になっています。その後、ソニーで半導体事業のCFOや新規事業の責任者を経験し、半導体業界の課題認識を深めたのちに、材料メーカーとしてのレゾナックの挑戦へとつながっています。
私が2021年に入社し、2022年にCFOに就任した当時の最大のミッションは、明白でした。昭和電工による日立化成の買収は、1兆円の借金をして1兆円の「小が大を飲む」買収を行うという、日本の製造業としては極めて大きなリスクを取った決断でした。しかしその結果、6,000億円近い無形固定資産・のれんを抱え、金利上昇や減損リスクに晒される危機的状況にありました。したがって私の最初の役割は、集中治療室に入っているような状態から「バランスシート(B/S)の修復とポートフォリオ変革を最短でやり遂げること」でした。
1990年野村総合研究所入社。メリルリンチ日本証券、JPモルガン証券にて投資銀行部門TMTグループ統括責任者などを歴任。2015年ソニー入社、ソニーセミコンダクタソリューションズ企画管理部門長(CFO)、ソリューション事業担当執行役員を経て、2021年昭和電工(現・レゾナック)入社。2022年より取締役常務執行役員CFOに就任。
「ベストナビゲーター」として事業の現場に横串を通すCFO組織の変革
池側:1兆円の負債を抱えた状態からの財務基盤の強化には、極めてタフな交渉や変革が必要だったと思います。その中でCFO組織のミッションや体制をどのように再定義されたのでしょうか。
染宮:CFO組織のミッションを「レゾナックの企業価値向上のために、ベストナビゲーターとしてグループおよび事業部をサポートすること」と定義しました。CEOが髙橋(髙橋秀仁氏)というドライバーだとするならば、私は助手席に座るナビゲーターです。単に地図を見るだけでなく、クルマのコンディションやコースの危険を把握し、運命を共にする覚悟で伴走する存在です。
体制面では、従来の経理・財務機能に加え、CSO(最高戦略責任者)配下にあった戦略企画部から、FP&A、予算、中期計画、M&A実行等の機能をCFO配下に集約しました。さらに、各事業部や事業所に属していた経理メンバーの人事権もすべてCFOに集約し、約250名規模のCFO組織として全社に横串を通しました。
池側:各現場の経理パーソンの人事権をCFOに一本化するのは、日本企業では非常に珍しい組織刷新ですね。では、今度は小宅様のご経歴と制度会計・税務・FP&Aを統括するお立場からの取り組みをお聞かせください。
小宅智則氏(以下、小宅):私は2つの監査法人で15年間、監査に加えM&A・PMIの支援業務にも携わり、その経験を事業会社でも活かしたのち、昭和電工に入社し、戦略企画部に配属されました。入社直後に日立化成の買収が決まり、レゾナックとして事業計画の策定や予算編成・業績管理・投資意思決定プロセスの統合を推進しました。現在も、計画策定から業績レビューまでの一連の業務の運営と効率化に取り組んでいます。
2026年7月からは、制度会計・税務・FP&Aを所管する「経営管理部」の部長を務めています。各事業部の収益改善や投資判断を財務・会計面から支援する「財務経理BP部」(BPはビジネスパートナーの略)と密に連携しながら、向こう5年間の事業計画を毎年見直す「5カ年ローリング計画」および予算の策定、四半期ごとの業績レビューを通じて、数値から事業の課題を把握し、経営の意思決定に反映する仕組みを運用しています。
公認会計士。あずさ監査法人、有限責任監査法人トーマツにて約15年間、監査・アドバイザリー業務に従事。事業会社に転じ、カルソニックカンセイ(現マレリ)などを経て昭和電工に入社。日立化成とのPMIプロセスにおいて、レゾナックとしての事業計画の策定、予算編成・業績管理・投資意思決定プロセスの統合を主導。2026年7月から経営管理部長として、全社の制度会計・税務・FP&Aを統括。



