「コングロマリット・ディスカウント」を打破するIR・バリュエーション戦略
池側:財務の健全化と事業の集中が進む中で、株式市場(資本市場)からの評価はどのように変わってきましたか。
染宮:レゾナック発足当初、市場からは「旧態依然とした総合化学メーカー」と見なされ、株価には大きなコングロマリット・ディスカウント(複数事業を持つ企業の市場評価が、各事業を個別に評価した価値の合計を下回る現象)が発生していました。時価総額が理論的な株式価値(SOTP分析:事業ごとの価値の合計)を大幅に下回っていたのです。
そこでIR方針を根本から変革しました。IR部長を社外から採用して姿勢をリセットし、開示セグメントを「半導体・電子材料」を中心として前面に押し出す形に変更しました。さらに、当社自らが「売上1兆円×EBITDAマージン20%×EV/EBITDA倍率15倍=企業価値(EV)3兆円、ここからネット有利子負債等を差し引いて時価総額2兆円(株価10,000円)」という理論株価のストーリーと算定根拠を決算資料で開示しました。
事業ポートフォリオの変革を進めると同時に、市場に対しては「我々は総合化学ではなく、世界トップクラスの半導体材料メーカーである」というメッセージを、事業の変化や成長性とあわせて根気強く伝えてきました。こうした中で、一部の証券アナリストによるサブセクター分類の見直しなど、市場の評価にも変化が表れ、PBR(株価純資産倍率)は1倍割れの水準から3.9倍(2026年8月時点)まで上昇しました。今後の成長への期待も背景に、AI・半導体関連銘柄として相応の評価をいただけるようになってきたと捉えています。
小宅:市場に対して「我々は総合化学ではなく、世界トップクラスの半導体材料メーカーである」というメッセージを根気強く伝え続けた結果、証券アナリストのサブセクター分類が「総合化学」から「電子材料」へと変更され、ディスカウントが外れていきました。PBR(株価純資産倍率)も1倍割れの水準から3.9倍(2026年8月時点)へと大幅に拡大し、AI・半導体関連銘柄としての正当なバリュエーションを獲得できています。
「染ラボ」による人材育成と、CFO組織の次の役割
池側:最後に、こうした高度なファイナンス戦略を支える「人・組織の育成」と、今後のCFO組織やFP&A組織の展望についてお聞かせください。
染宮:人財育成面では、私自身が主導する社内MBAプログラム「染ラボ(染宮ラボ)」を展開しています。選抜された若手・中堅(平均35歳)を対象に12ヵ月間のプログラムを実施しており、キャリアビジョン策定や企業価値経営のケーススタディ、社内講師によるファイナンス基礎・産業研究講座に加え、最終課題としてチームでCEO(髙橋)へ戦略提案を行う実践的なカリキュラムです。
講義修了者は累計180名を超え、ゼミ卒業生も70名以上を輩出。部署の壁を超えた横のネットワーク(人財プール)が形成されています。また、専門性とキャリアパスを明示した「CFO領域キャリアツリー」や育成ローテーションも整備し、自律的な成長を後押ししています。
小宅:デジタル/IT部門とCFO組織が連携し、財務データと事業に関わるデータを連携させ、計画策定や業績分析に活用するためのデータ基盤の整備を全社的な取り組みとして進めています。将来的にはAIも活用し、中長期経営計画や予算の精度を高めていきたいと考えています。こうしたデータ活用を通じて、事業を取り巻く環境や事業の実態が業績の数字にどう表れるかを理解した上で、事業部長とフラットに議論し、意思決定を支える提言ができるビジネスパートナーを育てていきます。
染宮:これからの「フェーズ2(成長ステージ)」においては、CFO組織が適切にリスクを取り、AI向け先端半導体パッケージなどの共創活動(JOINT3など)を支える成長投資について、財務面から検討・判断を主導していくことが重要です。内部資本市場でのROIC経営の徹底と、外部資本市場への株価向上ストーリーが連動する好循環を作り出し、企業価値最大化に貢献していきます。
池側:多岐にわたり非常に示唆に富む重厚なお話をありがとうございました。




