「限界利益」を軸にした管理会計の統合
池側:歴史も文化も異なる昭和電工と日立化成の統合(PMI)において、ファイナンス面での融合にはどのようなご苦労がありましたか。
小宅:制度会計には会計基準という共通の土台があり、統合に向けた論点を明確にしやすい面がありました。一方、管理会計は各社が長年培ってきた経営の考え方や仕事の進め方を反映しています。そのため、単に数字の定義をそろえるだけではなく、何を重視して事業を管理するかから議論する必要がありました。
昭和電工は損益計算書(P/L)の「売上総利益(粗利)」を重視していたのに対し、日立化成は「限界利益(売上から変動費を差し引いた利益)」と固変分解を重視していました。
議論を重ねた結果、日立化成の管理会計をベースとした限界利益を軸とする業績管理手法とシステムを取り入れました。また共通の管理会計ルールとレポート様式を整え、製品・事業の収益性を同じ基準で把握できるようにしました。最終的に被買収側の良い文化を取り入れたことで迅速な一本化が実現しました。
売上規模から収益性へ──低利益製品の見直しと価格交渉
池側:限界利益の可視化は、現場の営業活動や事業戦略に具体的にどのような変化をもたらしたのでしょうか。
染宮:限界利益率を製品別・顧客別に見える化すると、営業担当者が「一見売り上げが大きく見えるが、実は売れば売るほど赤字になっている製品」を把握していない実態が露わになりました。そこで私は2022年着任当時、「売上の規模は追求しない。売上1兆円以上を維持できれば良いので、儲からない製品の売上4,000億円分を削ってほしい」と明確な方針を出しました。
売上の増大ではなく、不採算品の削減や値上げ交渉の達成度を評価する姿勢を強烈に打ち出しました。特定の顧客向け専用品(シングルサプライヤー品)で当初の顧客要望数量から実際の出荷数量が激減した場合など、価格改定や発生費用の一部負担をお客様にも求める交渉を進めてもらいました。私自身が率先して現場を突いたため、社内では「値上げフェチのダースベイダー」と冗談交じりに呼ばれもしましたが(笑)、3年間やり続けたことで、現場の営業から自然と適正な価格交渉ができるカルチャーへと脱皮しました。
小宅:この方針を受け、グループ全体で売上約4,000億円規模の低利益製品を見直しの対象としました。対象の売上をすべて削減したわけではなく、各事業部がこれらの製品について2~3年かけて値上げ、コスト削減、撤退を進めました。経営管理部では「低利益品リスト」を作成し、対象製品の値上げや撤退などの取り組みの進捗を各事業部と継続的に確認してきました。その結果、主にモビリティ・ケミカルセグメントで低利益製品が減少し、数十億円規模の利益改善につながりました。



