新規事業や製品開発において生成AIの活用は不可避ですが、経営層や事業責任者にとって「著作権や倫理といった法的リスク(ガバナンス)」の管理は悩ましい課題です。リスクを恐れてAI活用を制限すれば、企業の競争力は奪われてしまいます。本連載では、経営学者・やさしいビジネススクール学長の中川功一氏が、世界最先端の経営学の論文を初学者にもわかりやすく解説しつつ、「現場で使える学術エビデンス」まで落とし込んで紹介します。今回は、アメリカンホンダモーターカンパニー/筑波大学大学院の原寛和氏による論文をピックアップ。伊藤園やトヨタ自動車といった先進企業の豊富な実践事例を紐解きながら、経営層が取り組むべき「AI時代のデザイン経営」のあり方を解説。攻めの組織変革と、それを安全に推進するためのガバナンス設計の両輪を回す実践知をお届けします。
本記事は「論文ニュース」の「生成AIでデザイン経営はどう変わるか」を再編集・加筆して掲載しています。
なにがスゴイ? 本論文の新規性
「デザインの三段階」をもとに、デザインマネジメントを「狭義」「広義」「経営レベル」の三層に整理し、生成AIの影響を経営の視点から位置づけた
日米の自動車業界への調査等から、画像生成AIが「資料作成」「ラフスケッチ」「設計支援」に使われている実態を、いち早く明らかにした
画像生成AIとLLMは得意な工程が異なり補完し合う関係にあること、そして、組織としてどう使いこなすかが企業の競争力を左右しうることを示した
なぜ今、「生成AI時代のデザインマネジメント」が経営課題なのか?
ChatGPTをはじめとする生成AIの急速な進化は、私たちの働き方やビジネスのあり方を根本から変えようとしています。特に、これまで人間の感性や創造性が不可欠とされてきた「デザイン」の領域においても、その影響は無視できません。
今回紹介する、アメリカンホンダモーターカンパニーの原寛和氏(筑波大学大学院)による論文「生成AI時代のデザインマネジメント」は、これからの企業経営において「デザイン」をどう考え、どうマネジメントしていくべきか、重要な問いを投げかけています。本記事では、この論文の要点を紐解きながら、経営層が実践すべき「攻めと守り」のAI活用について解説します。
論文要約:生成AIはデザインとマネジメントをどう変えるのか?
そもそもデザインとは、単に「見た目を飾ること」ではなく、「特定の目的を達成するための計画・設計・問題解決のプロセス」全体を指します。これを制作部門の仕事にとどめず、組織全体の価値創造のための「経営資源」として戦略的に管理・活用することが「デザインマネジメント」です。これには優れたデザインを生み出すための環境整備、人材育成、プロセス管理、そして経営戦略とデザイン戦略の統合などが含まれます。
生成AIが変える「デザインマネジメントの三階層」
論文では、経済産業省(2017)の「デザインの三段階」を基に、デザインマネジメントを以下の三階層に整理しています(図1)。経営レベル(ビジネスモデル)が広義(ユーザー体験、製品/サービス全体)と狭義(意匠・UI)を、広義が狭義を内側に含む入れ子の関係です。
- 狭義:意匠やUIを対象に、デザイン組織とプロジェクトをマネジメントする
- 広義:ユーザー体験や製品/サービス全体を対象に、開発プロセス全体でデザインを活用する
- 経営レベル:ビジネスモデルやエコシステムを対象に、デザインの考え方を経営全体で活用する
現在、生成AIの影響は、主に狭義の層(資料作成やラフスケッチなど)に表れています。これを「広義」や「経営レベル」にまで広げられるかどうかは、部門間の連携や組織的な活用しだいです。生成AIを現場の作業効率化ツールで終わらせず、組織変革として外側の階層へ広げていく。それを主導するのが経営層の役割です。
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