「良い経営はよい」という放任主義がM&Aを成功させた
90年代に入ると、日本の大企業がバブル経済期に買収した外国企業の経営のほとんどが失敗に終わり、90年代後半にかけて後処理に追われることとなる。
ソニーにおいても、90年代中盤にかけて有利子負債が増加していくとともに、80年代に行った2つの巨額買収ののれん償却の影響もあり、95年3月期には1666億円の営業損失を計上している。
しかしながら、多くの日本企業が海外でのM&Aを失敗させた中、ソニーは自社の持つハード技術と買収した企業のソフト技術とを融合させることに成功しており、それが90年代の同社の経営を支えた。
特にCBSレコーズとコロンビア・ピクチャーズとのシナジー効果は大きく、ソニーが得意とする音響・映像機器、デジタル処理技術などのハード技術と、CBSレコーズやコロンビア・ピクチャーズが持つ音楽、映像分野のソフト技術はソニーの中核事業として融合した。
同社がこれらのM&Aを成功させた理由として、放任主義を徹底して行ったことが挙げられる。それまで日本企業は、「金は出すが、口は出さない」というスタイルが一つの特徴だった。それがバブル経済期には、世界的に日本的経営が優れているとされ、買収した企業に対しても日本的経営の押し付けが目立った。しかし、ソニーはあくまで長期的視点に立ってよい経営はよいと認め、取り入れるスタンスを貫いた。
のれんも無理のない範囲で償却されており、直近でも営業利益に対して4%と、損益への影響も軽微なものとなっている。また、のれんの残高は減少傾向にあり、総資産に占める割合も1%を切っている。これらのことからも綿密な計画に基づいた買収金額の設定を行ってきたことがうかがえる。
グループ内のシナジーをフル活用したゲーム事業への参入
技術革新により新しいメディアが生まれ、コンピューターや通信、テレビなどの家電が一体化したマルチメディアの時代になり、ますますハードとソフトのシナジーを必要としていった。
そんな中、家電などのハードと音響・映像ソフトの両方を持つソニーはゲーム分野に進出した。93年11月、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME(J))とソニーの共同出資により、家庭用ゲーム機およびそのソフトウエアの開発・販売・ライセンス業務を行う「ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)」を設立した。
そして設立1年後、同社が持つハード技術と音響・映像などのソフト技術を融合し完成させた「プレイステーション」は、わずか発売後1年半で累計出荷台数が全世界で500万台を突破した。膨大な開発費により長期借入金は増加傾向にあるが、一つのモデルがこれだけ短期間に大量に販売されたのはソニーの中でも記録的なものであり、95年の経営悪化からV字回復を果たすきっかけとなった。