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ケヴィン・ケリーの提言――テクノロジーの受容、固定観念の問い直し、新たな生態系の構築

【特別インタビュー】ケヴィン・ケリー × takram design engineering 佐々木康裕

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今後30年のテクノロジーの進化を「不可避(inevitable)」として「受け入れる(embrace)」

佐々木(takram design engineering デザインストラテジスト):
 まず、個⼈的な話からさせていただくと、私はあなたの大ファンで、これまでのほとんどの著作は読んでいます。前著の『テクニウム』はダーウィンの『進化論』と同じレベルで重要な本だと考えています。

 今回の著作について触れる前に、ご自身の思想のベースにあるものについて伺いたいと思います。若い頃のヒッピー時代、ケリーさんはアジア各国を旅され、写真家として記事を書いていたわけですが、そうした経験や⼈との交流は、その後のご自身の思考体系にどのような影響を与えたとお考えですか。

ケリー:
 20代にアジア諸国を旅した経験には大きな影響を受けています。その経験から学んだことの中で特に重要なのは、「楽観主義」を体得したことです。

 貧困にあえぐ非常に多くの人々を目にしました。その貧困は、当時の私には運命付けられているとしか思えなかったのですが、多くのケースで、その後、私が育った環境よりも先進的でより良い環境に様変わりしています。それで、ものすごく楽観的になったんです。

 また、アジアでは、プライバシーの概念が私たちのそれとは少し違っていました。通りやガレージでものを作ったり、ものごとをオープンに、人目につきやすくしたりする傾向がありました。そのため、ものづくりの現場を実際に見る機会に恵まれました。どのようにものごとが進み、どう社会が回ってるかも、ね。台湾などでは、一般家庭の自宅の中でものを作っているところにすっと入ってしまえるような感じでしたから。その透明性が、社会がどう回っているかを学ぶ上で、大きな教育的効果がありました。

 「歴史認識」についても学びがありました。実は高校時代は歴史が大嫌いだったのです。でも、アジア放浪で、歴史が未来に与えてくれる示唆に意識が向けられるようになり、未来への関心と同時に、歴史への関心も深まりました。アジアで過ごした時間は、これまでの歴史の移り変わりが未来にどう影響するかを示してくれるものでした。

佐々木:
 これまでに読んだあなたの3冊の本やブログ記事には、一貫して楽観主義的な思考が感じられるので今のお話には納得しました。今回の本について伺います。『テクニウム』の後、どのような動機でこの本を書こうと思ったのでしょうか?

ケリー:
 この30年間ほどの変化には目覚しいものがありましたが、これからの30年間の変化はそれを超えていくものだと考えています。大切なのは、その変化のうちの一部はすでに始まっているということです。また、それらはこれまで以上に、人々を恐れさせている。禁止や遅延によって、それらの変化を止めようとする動きも見受けられます。

 そこで、テクノロジーを遠ざけるよりも、その恩恵に浴することができるよう、これらの変化をもっと上手に受け入れる(embrace)方法を示したいと思ったのです。

佐々木:
 テクノロジーと戦うのではなく受け入れよう、というのはこの本のキーメッセージですよね。

ケリー:
 ほとんどの技術は、発明当初は何の役に立つのか、どのような使用用途があるのか、わからないものです。ある技術を理解したり、規制したり、あるいは害を最小限に止めるためには、その技術を使ってみるしかない、というのが私の持論です。

 「あるもの」が何であるかを明らかにするためには、それについて考えているだけではなく、使ってみる必要がある。VRやAIについて、考えるのも結構ですが、実際にしばらく使ってみないと、それらがどんなものかはわかりません。利便性も害も、関わってみたり利用したりすることではじめて見えてくる。そのため、どんな害があるかを想像するよりも、なるべく早く使ってみて、観察して、実際の経験に基づいて考え、方向性を見出すべきだと主張しているのです。

ケヴィン・ケリーケヴィン・ケリー
ワーイアード創刊編集長。1952年生まれ。著述家、編集者。1984〜90年までスチュアート・ブラントと共に伝説の雑誌ホール・アース・カタログやホール・アース・レビューの発行編集を行い、93年には雑誌WIREDを創刊。99年まで編集長を務めるなど、サイバーカルチャーの論客として活躍してきた。現在はニューヨーク・タイムズ、エコノミスト、サイエンス、タイム、WSJなどで執筆するほか、WIRED誌の〈Senior Maverick〉も務める。著書に『ニューエコノミー 勝者の条件』(ダイヤモンド)、『「複雑系」を超えて』(アスキー)、『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房)など多数。

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