自己変革を続けるデザイン思考
一般的に、デザイン思考の歴史を語るときには「システムの科学」を書いたハーバート・サイモンや、スタンフォード大学のロバート・マッキム、建築家のピーター・ロウなどがその起源としてよく挙げられ、その後、ドナルド・ノーマンがインタラクションデザインを、IDEO創業者のデヴィッド・ケリーが人間中心デザインを・・・と続きます。建築やファニチャー、インタラクション、プロダクト、など個々のデザイン分野が拡張を続け、その適応先を全社レベルの経営戦略、組織開発にも触手を伸ばして云々、と。
しかし、このように個別細分化したデザイン領域の発展の直線上にデザイン思考の歴史を見ると、デザイン思考は何であるか、今後どうなっていくのかを考えるのが難しくなってしまいます。
先日対談したケヴィン・ケリーから、歴史や未来を語るときに、直線的なシナリオではなく、“フィールド(面)”で捉えよ、の示唆を受けました。彼が言うように、デザイン思考の歴史をフィールドとして見るために、デザイン思考の系譜ではなく経営戦略の系譜から見ると何が見えるでしょうか?
Harvard Business Review誌の経営戦略の歴史について触れた論文に、1958年以降の主要な経営戦略が並べられています。デザイン思考という単語自体はこの論文には登場しませんが、時系列で見ると、Dynamic(動的な)、Temporary(当座の)、Serial(連続的な)、Adaptive(適応的な)、Transient(一時的な)という単語が年を追うにつれて多く登場し、精緻で事前分析的でない、スピーディーで相互作用的な戦略フレームワークが存在感を増してきたのが分かります。端的に言えば「不確実な状況下での事業創造」がますます強まっていて、デザイン思考は、その一つのツールとして“ハマった”と言うことができます。
逆に言えば、デザイン思考的な手法は、経営戦略上の引き出しの一つにすぎません。
デザイン思考は、強力ではあるが万能ではなく、汎用的であるが網羅的ではありません。新しい事業モデルを作ろうとするフレームワークは無数に存在し、今後も増殖を続けます。今後、事業創造ツールとしての地位を維持向上するためには、近似している経営戦略を取り込んだり、自らが新しいアプローチを生み出したりしつつ、デザイン思考それ自身が自己変革を続ける必要があります。