人と人との偶然の出会いは、社会に新たな価値を生み出すきっかけとなるだろう。事実、コワーキングスペースやシェアオフィスなど、多様な価値観やバックグラウンドを持つ人々が交流できる空間が、オープンイノベーションが起こり得る場として注目を集めている。しかし、単に多くの人々が集まることだけで、社会に大きなインパクトを与えるようなイノベーションが起こるとは考えにくい。オープンイノベーションを促進するために、「場のデザイン」の力がひとつの大きな要素となる。
「SEA DAY 02」のセッションでは、登壇した有識者の三者三様の事例から、人々の偶然の出会いとその先にあるイノベーションに影響を与える「場のデザイン」について探る。
東急電鉄の場作り:渋谷の多様性を表現するための「ハードウェア × ソフトウェア」
最初に登壇したのは、東急電鉄の小林乙哉氏。渋谷や二子玉川など、東急沿線のまちづくりを手がけてきた。渋谷再開発のリーディングプロジェクトである渋谷ヒカリエの新設には、企画段階から携わっていたという。
渋谷ヒカリエには、ショッピングスペースからレストラン、劇場やギャラリーまで、さまざまな施設を“タテ積み”で入れています。これはとても非効率なことで、不動産業界では一般的ではありません。でも、渋谷という街の多様性を表現するため、あえて挑戦しました。
なかでも小林氏が携わったのが8階の「8/」。イベントスペースやギャラリー、コワーキングスペースといった多様な要素が1フロアに詰め込まれている。
渋谷という街の最大の価値は、おもしろい人たちが集まること。新しい価値観やアイデアを発信しようとしている人たちが集う場として『8/』を作りました。
実際「8/」ではこれまで、マーケットイベントや展示会、ワークショップや講演会といった多種多様なイベントが催されてきた。小林氏によると、「場」というハードを作るだけでなく、イベントというソフトで“色付け”をしていくことが「場のデザイン」の重要な要素なのだという。
イベントで“色付け”をしていった結果、『8/』はなにか新しいことを仕掛けたいと考える人々の聖地になってきていると思います。(東急電鉄・小林氏)
現在は渋谷ヒカリエのプロジェクトを離れ、二子玉川のまちづくりを主に手がけているという小林氏。都心から電車で約10分という場所にも関わらず、川や緑といった自然があふれている二子玉川ならではの特性を最大限に活かしたいのだという。
多摩川沿いの公有地を使ってアートイベントを行いました。馬を走らせたり、キャンプっぱいことをやったり。公有地は、利用するために多方面に許可をとらなければならず苦労しましたが、新たに『場』を作るだけでなく、今ある『場』をどう活かすかという視点も『場のデザイン』のひとつだと思います。