日本のものづくり企業に足りないのは「斬新的なアイディア」ではなく、“本流筋のロードマップ”の前提条件を疑うこと
横田:
実は、寺田は以前キヤノンにいたことがあって、似たようなことを言っていたことがあります。確かに、自動車とカメラって、ちょっと似ているところが多いですよね。プロダクトとしてこだわりが強く、機能性というより趣味的にギミックを「たしなむ」人も多い。ここ10年くらいで、コンパクトデジカメが売れつつも、スマートフォンの性能が急速に進化し、「それで十分」というユーザーも増えてきました。画素数や質感など、プロダクトだけにこだわりすぎると、ユーザーの気持ちに気づけない事態に陥りかねない。
寺田:
まさにそうなんですよ。いま、うなずきながら聞いていました(笑)。私は新卒で6年半ほどキヤノンに在籍し、特にパテントエンジニアとして知財の取り扱いなどを主な業務としていました。製品についての技術や性能を理解しつつ、その知財的価値を判断する立場にいたわけですが、「新しいカメラの価値に気づいていなかったか」と言われたら、実は決してそんなことないんですよ。おそらく、多くの社員が気づいていたと思います。実際、入社当時ではカメラとインターネットをつなぐという構想自体は盛んに議論の対象にはなっていました。でも、なかなか製品化されない。いや、製品化されたけれども、製品化時期が遅くてモバイルの進化に追いつかなかったんです。というのも、製品開発のメインにいたわけではないので詳細はわからないのですが、商品開発の大戦略的なロードマップがあり、その本流からそれる部分というのは、既存の競合が取り組まない限りなかなかみんな本腰を入れて取り組まないんですよね。