“美白一筋”でシミ研究を行うポーラ本川さんは、なぜ「縄文人の研究」に辿り着いたのか?
寺田(i.lab Business Designer):
ポーラ化粧品の研究開発部門であるポーラ化成といえば、化粧品業界では斬新な発見や技術で革新的な製品を次々と登場させてきました。その研究員である本川さんとはどんな方なのか、興味を持たれている方も多いと思います。まずは本川さんのこれまでのご経歴と現在のお仕事についてお聞かせいただけますか。
本川(ポーラ横浜研究所 肌科学研究部 上級主任研究員):
はい、ポーラ化成に入社して約20年間、“美白一筋”に研究を続けてきました。その中で3つの役割を担っており、1つは基礎研究としてシミのメカニズムを解明すること、2つ目はその研究に基づき効果のある素材や配合を考えて製品を開発すること、そして3つ目は、記者発表対応やメディアへの出演等を通じて、新しい発見や開発した商品を世の中に発信することです。
こうした基本業務に加えて、新しい価値を生み出すための活動にもチャレンジしています。たとえば、遺伝子診断技術を用いた新規事業開発とか、霊長類のシミの研究とか、縄文人の肌の研究とか…。それらを発展させて、3年前からは「新価値創造プロジェクト」をスタートさせました。こちらは化粧品というフィールドを超えて新しい価値を創造することを目標に、研究から事業化までを担うというものです。
村越(i.lab Product Designer / Jun Murakoshi Design 代表):
それもすべて“美白”に関連する研究なんですよね。「新価値創造プロジェクト」も、すべて業務としてされていることなのですか。
本川:
ええ、そうです。「業務から自然と発展したもの」と「業務を活用して個人的に発展させたもの」がありますね。前者は、たとえば「シミの研究」という大きな課題に対し、原因となるメラニンの“発生量”ではなく、“細胞の形”に着目することで新たな原因を見つけだしたというようなものです。
後者では、先ほど申し上げたような「縄文人の研究」が該当します。まず、日本人のシミになりやすい遺伝子の研究からスタートして、パターンを発見しました。と、ここまでは業務範囲です。しかし、シミの遺伝子に人種が違うほどの差異があるのに着目し、成り立ちを研究したところ、日本で分かれたのではなく海外で既に分かれてやってきたことや住んでいる地域に偏りがあったことが分かり、日本人のルーツの研究と重なるのではないかと考えました。「縄文人と弥生人」という日本人の二重構造説とシミの遺伝子がぴったり一致したわけです。
寺田:
それは社内のみの研究ではないですよね。
本川:
国立科学博物館の門を叩いて「共同研究をやらせてください」とお願いしました。それで数千年前の縄文人の歯から取り出したDNAを解析して、シミの遺伝子があることを確認できました。化粧品から、えらく遠くまで来てしまいましたが(笑)、あくまで業務起点なんです。美白から人類学へと来て、再び美白へと戻って「現代人でも“縄文顔”の人はシミが多い」という仮説を検証したところ、その通りの結果が得られました。これによって、顔のタイプでより予防的な美白が必要な人がわかるようになったんです。一度遠くまで行って、再び戻ってきたというところですね。