「生命とは何か?」を探求してきた数学者たちとコンピューターの歴史
ノーベル物理学賞受賞者であり「シュレディンガーの猫」で有名な理論物理学者のエルヴィン・シュレディンガーが、1944年にまさに『生命とは何か』という本を出版した。彼は、この世に存在するものは全て原子で出来ているのだから生命も他のものと同じように物理法則に従っていてもおかしくないと考え、物理学の観点から生命を捉えようとしたのだ。宇宙全体や全ての物質は無秩序な状態に向かい、周囲の環境と区別がつかなくなっていく(エントロピーが大きくなっていく)が、生命だけはそれにあらがうかのように秩序を維持しているように見えると説明している。エントロピーという物理学の概念を入れることにより、物理学が長年培った知識やツールなどを生命現象(の一部)の解明に使えるようになったのだ。これは、実際の生物を観察・解剖する従来の生物学のアプローチとはまったく異なるものであった。
1951年に、現代の経済学の基礎となったゲーム理論や皆さんが今この記事を見るために使っているコンピューターの基本構造を生み出した天才数学者フォン・ノイマンが、「オートマトンの一般論理学的理論」を発表した。オートマトンとは、”自動で計算する機械”のことであり、ここで言う一般とは自然も人工物も含む”普遍的な”という意味だ。つまり生物の振る舞いも計算機の振る舞いも同様に計算可能であると発表したのだ。これが公式なALifeの最初のモデル(数式で記述した模型)であり、ALife の夜明けである。なおノイマンは、”生命は情報の中だけでなく複雑さの中にある”と言っている。これはカオス理論や非線形型力学系の研究が盛んになる随分前に予見していたことになる。