受け手がストーリーを作り出す余地のないものはつまらない──スマイルズ遠山さんが語る、新事業の創り方

【ゲスト】株式会社スマイルズ 代表取締役社長 遠山正道氏:前編

 本連載は、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』で経営における美意識の必要性を世に問うた山口周氏、イノベーティブで協働的な組織のあり方とその実践について研究を行う埼玉大学の宇田川元一准教授を連載ナビゲーターとして、「経営における美意識とは何か?」をゲストと共に深掘りしていく。1回目のゲストは「Soup Stock Tokyo」を始め、独自のスタイルを持つ事業を展開する株式会社スマイルズの遠山正道社長。前編では、最近心を動かされた建築や演劇などの話をきっかけに、企業と消費者の距離感や組織の中で働く個人のあり方についての考え方を伺った。

[公開日]

[語り手] 遠山 正道 山口 周 宇田川 元一 [取材・構成] やつづかえり [写] 長谷川 梓 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] ワークスタイル 事業開発 企業戦略 美意識

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曖昧で朦朧としたものの美しさ、その向こう側が理解できたときの面白さ

山口周氏(コーン・フェリー・ヘイグループ株式会社シニアクライアントパートナー、以下敬称略):遠山さんが最近、心を動かされたことはなんですか

遠山正道氏(株式会社スマイルズ 代表取締役社長、以下敬称略):タニノクロウという劇作家の『地獄谷温泉 無明ノ宿』と『MOTHER』という作品を観ました。面白かったので、最近スマイルズで始めた「The Chain Museum」(注1)で彼と組んであることをやろうと考えています。

地獄谷温泉 無明ノ宿トレイラー(庭劇団ペニノ)

もっと最近だとパリとロンドンに行きまして、妹島(和世)さんがいるSANAAが設計したルーヴル・ランスが綺麗でしたね。すごく朦朧とした感じで。外壁に周りが写り込んで風景に溶けて見えるんです。中に入るとスモークガラスみたいな壁が少しカーブしていたりして、境界が曖昧で。床も高くなったり低くなったり、ちょっと感覚をズラされるような、常に映像の中にいるような気がしました。

Le Louvre-Lens, un musée capital

また、このあいだ横山大観を観に行ったんですけど、彼の描き方は「朦朧体」というんですよね。ルーヴル・ランスはモダンだけど、そういう朦朧感があるんです。

Yokoyama Taikan 001.JPG
By Yokoyama Taikan - self-scanned from museum brochure, パブリック・ドメイン, Link

山口:湿度が感じられるような?

遠山:そうね。リアルな熱を感じるようなものではなくて、あくまでもモダニズムの綺麗な感じ。フワッと霧に消えていくような美しさですね。

タニノクロウの作品は真逆で、もっと熱っぽいんです。人間ぽいというか。

『MOTHER』を観たときはね、正直に言うと、出口でタニノ君と会ったときに「良かったよ」と言えずに「お疲れさま」と言って出てきたんですよ。でも、一緒に観に行った人たちとご飯を食べながら話していたら、「それって、そういう意味だったの!?」というのがどんどん出てきて。最初は全く消化不良だったのが、話しているうちに目から鱗ですよ。そのうちタニノ君本人が来て、彼の話を聞くとさらに「え、そういうことだったんだ」と全員仰け反っちゃうくらい、めちゃくちゃ面白いんです。

その体験は、作品との距離感みたいなものからくるんですよね。最初から全部書いてあったら面白くない。

山口:読めばいいという話になっちゃいますよね。

遠山:そう。それにタニノ君自身は積極的に説明するわけじゃなくて、我々が聞けば答えてくれるくらいなんです。

脚本を作るときは、演者のプロファイルをものすごく書き込んだりするらしいけど、観客はそういう背景を知る必要はない。その瞬間の美しさなり空気を感じてもらえればそれでいいと、彼は考えているんでしょう。でも、我々としては知ると面白い、というところもあって。

これから「The Chain Museum」でやろうとしていることは、その辺がひとつの切り口になってくるんじゃないかと思っているんです。

注1)The Chain Museum 

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