顧客のジョブを起点にした市場の定義──「ターゲット市場の選択」と「市場規模の推定」

第3回

 前回(第2回)では、イノベーションプロセスの4ステージの概要と、「ジョブ」を構成する主な要素を整理しました。今回からは、顧客のジョブを中心としたイノベーションプロセスの詳細に入っていきます。なお、ジョブ理論には多くのバージョンが存在します。本連載では、皆さんがご存知のクリステンセン教授に大きな影響を与えたといわれるアンソニー・ウルウィック氏が提唱するアプローチである成果指向イノベーション(Outcome Driven Innovation)*1のエッセンスを、顧客のジョブを中心としたイノベーションの足掛かりとしてご紹介していきたいと思います。

[公開日]

[著] 白井 和康

[タグ] デザイン思考 ジョブ理論 顧客のジョブ

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顧客のジョブを中心としたイノベーションプロセスでは4つの成長オプションが存在する

 最初に、顧客のジョブを中心としたイノベーションプロセスの4つのステップをもう一度見ていきましょう(図1)。最初の「定義する」ステージにおいては、市場の選択(厳密に言えば仮選択)、市場の定義、市場サイズの推定という3つの主要なステップから構成されます。

イノベーションプロセスの4つのステージ(図1)イノベーションプロセスの4つのステージ

 顧客のジョブを中心としたイノベーションに関して、皆さんは「中核市場の選択」、「関連市場への進出」、「既存市場の破壊」、「新規市場の創造」という4つの主要な成長オプションを検討することができます(図2)。どのオプションが最も大きなイノベーション機会を提供するかは、「理解する」、「発見する」のステージを通じて明らかになっていきますが、各々の成長オプションがどのようなものであるかを最初にご説明していきましょう。

■中核市場の成長 – このオプションは、既存の顧客がより良いジョブを成し遂げることに役立つプロダクト/サービスを考案することを目的とするものです。イノベーションというと新規事業のみを思い浮かべる方もいるかもしれませんが、実際のところ、欧米企業の多くはこのオプションの可能性から検討していくことが多いようです。このオプションは、「持続的イノベーション」とも呼ばれることもあります。

■関連市場への進出 – このオプションは、既存の顧客がより多くのジョブ(関連/隣接するジョブ)を成し遂げることに役立つプロダクト/サービスを考案することを目的とするものです。例えば、iPodはiTunesを組み合わせることで、音楽を楽しむだけでなく、楽曲を収集する/編集するといったジョブに役立つ機能を提供することで大きな成功を収めました。また、いくつかの戦略コンサルティングファームは、戦略を策定するという顧客のジョブを支援することだけでなく、戦略を実行することを支援することによって事業を拡張してきました。

■既存市場の破壊 – このオプションの典型は、「破壊的イノベーション」と呼ばれるものです。分かりやすく言えば、何らかの理由により特定のプロダクト/サービスを雇うことができなかったり、専門家に頼まなければならかったりするジョブ履行者に対して、より迅速、より便利、より安全、より安価に成し遂げることを可能にするプロダクト/サービスを考案することを目的とするものです。前者のサンプルとして個人向けプリンター(自宅で印刷する)、後者のサンプルとして妊娠検査薬(妊娠しているかどうかを自分でチェックする)が挙げられます。

■新規市場の創出 – このオプションは、誰も未だに行っていないジョブを成し遂げることに役立つ新しいプロダクト/サービスを生成することです。このオプションを実現するためには、商業利用可能なテクノロジーを必要とします。また、新しいビジネスモデルの生成や法規制の整備も必要になってくる場合があるでしょう。テレビ、コンピューター、インターネットなどは、この領域に属します。イーロン・マスクやジェフ・ベソスらが長期的なビジョンの実現として掲げる「宇宙ビジネス」などもここに含まれます。

4つの成長オプション(図2)4つの成長オプション

注)Outcome Driven Innovation(ODI)は、こちらのBizZine記事で紹介されています。

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